〜第6回〜
どうわはしょうせつに てんしょくした。
今回はこの昔話を題材にして、童話というメディアの変化を見ていきましょう。
じつは、ここで「残酷グリム〜」が誕生したカラクリを解明することができます。
みなさんは、昔話の「さるかに合戦[注1]」の内容を覚えていますか?
カニがサルにリベンジするって話ですね。
じつはこの「さるかに合戦」、現在では主に2つのバージョンがあるのを御存知でしょうか?
「親ガニ、サルは両方とも死なない」というのバージョンと
「親ガニ、サルの両方とも死ぬ」というバージョンでございます。
どうして2つのバージョンがあるのかというと、
「サルがカニを、子ガニと仲間たちがサルを、ブッ殺すのは教育上よくないから」という意見があるからです。
そういった理由から、今では「死なないバージョン」が全体の主流になっているようです。
では、教育上よろしくないとされる「死ぬバージョン」はどのように書かれているのでしょうか。
(わざわざ探して買ってきた)「死ぬバージョン」には、カニの死ぬシーンがこう書かれています。
まだ あおく かたい みを「えいっ!」と、なげられ かには ぺしゃりと つぶれて しんでしまいました。 |
そのとき、カニのすぐわきに何かが飛んできて、目の前を転がった。 青い柿であった。 やんわりと投げられたらしい。 続いて、すぐ第2の柿が飛んできた。 おどろきのあまり、カニは立ちすくんだ。 それ以上逃げてももう駄目だった。 サルは爆撃の決意を固めていたからである。 硬い柿を、さしあたってはぴたりとねらいをつけずにやたらに投げつけだしたのだ。 青い柿は電気仕掛けみたいに地面を転げまわってぶつかりあった。 そっと投げられた柿のひとつが背中をかすったが、べつに背中には異常なく柿は滑り落ちた。 ところが、第2弾が背中にぐさりとめり込んだ。 場所を変えれば、突然の信ずべからざる背中の苦痛は消えるとでもいうように、 カニはさらに逃げようとしたが、まるで釘づけにされたような感じで 全感覚が完全に狂ったまま、その場で息絶えてしまった。 |
〜今回のポイント〜 |
童話は「聞く」から「読む」ものに変わるとき、 その文章は細かい描写を必要とします。 細かい描写をすると、 それに比例して残酷レベルがアップしていきます。 テレレテッテッテ〜ン♪(レベルアップの音) |
[注1]さるかに合戦:
サルは柿の種を拾い、カニはおにぎりを拾ってきた。
「柿の実ができたら拾って採ってやる」という条件で、
サルとカニはおにぎりと柿の種をオンライントレード。
しかし、サルは約束を破る。自分は柿を食べて、カニには青くて硬い柿を投げつける。
カニは死んでしまう。
激怒したカニの子供たちは、
「うす」「はち」「くり」「ふん」などの協力を得て、サルにリベンジする、という内容。
[注2]ガンタンク:
「機動戦士ガンダム」に登場する地球連邦軍の戦車型モビルスーツ。
肩に2基のキャノン砲、両手にはバルカン砲が装備されている。
また、キャタピラにはジェット噴射機能が搭載されているので、飛行することも可。
茶道の世界では、座ったままの姿勢で畳の上をズリズリと移動することがあるが、
その様がこのモビルスーツのアイディアとなった、かどうかは定かではない。
[注3]カフカ:
1883〜1924。本名フランツ=カフカ。チェコスロバキア出身。
実存主義文学の先駆者で、不条理と絶望を描いた(補足)と言われている。
代表作は、「変身」「審判」「城」など、らしい。
「ファイナルファンタジー6」のラスボスとは微妙に異なる。
[注4]「変身」:
主人公のグレーゴル=ザムザという青年が、朝目が覚めたら虫になっていた、という物語。
それまで自分は貧乏家族の生計を支えてきた存在だったのに、
虫になった瞬間から、急に家族から憎まれるようになり、殺されてしまう。
自分が死んだあと、なぜか家族は幸せな生活を送り始めるという、
非常に単純かつ理不尽な小説。
グレーゴル=ザムザは、なぜ虫になったのか?どんな虫になったのか?
家族から尊敬されるはずの存在だった主人公が、
どうして殺されなければならなかったのか
といった様々な疑問に対して、物語中ではまったく描かれていないので、
様々な読者によって様々な解釈ができる、深読み大好き人間にはタマラナイ内容になっている。
[注5]1シーン:
ここで使わせてもらったのは、新潮文庫刊、高橋義孝訳のバージョンです。
ちなみに「カニ」→「グレーゴル」、「サル」→「父親」、「柿」→「林檎」にすると原文になります。
えっと、これって著作権侵害になるンでしょうか?
(補足)不条理と絶望を描いた:
カフカの「変身」は僕も大好きです。
しかし、ある学説によると
「グレーゴルが虫になったのは、当時カフカが新体操(を見る)ことにハマってたから」だそうです。
カフカ自身の日記にも書かれてるそうなンですけど、
運動オンチだったカフカは、身体が柔らかくクネクネウニウニ動く新体操の選手の姿から、
「虫」の着想を得たそうなのです。
だとすれば、「変身」という物語は
グレーゴルが虫になったのは決して不条理などではなく、
己の願望が現実化した結果、自分にとって悪影響を与えることとなったとも解釈できますが、
そのへんについては安部公房の作品でも読んでいただければと思ってます。