〜第5回目〜
深読み無限地獄。
一時期、童話がやたらとブームになってた頃がありました。
おそらく童話は、癒しブーム[注1]の片棒を担いでるンでしょうね。
童話ブームが起こってる頃、もっとも売れた童話に「葉っぱのフレディ[注2]」という絵本があったのをを御存知でしょうか?
もっとも、この絵本の購買層は中年サラリーマンだったらしいので、
童話ブームを作っている勝手にはしゃいでいるのは、子供じゃなくって大人ってことの証明なんですけども。
エェ年こいた大人が絵本読んで喜んでるわけですよ。
チャイルドプレイ[注3]みたいですね。
で、童話ブームに一役を買っていたのが、
いわゆる「童話の新解釈」という読解法であります。
なーんて言うと、なんかカッコよく聞こえますが、
つまるところ、大人が童話を読んで余計な解釈をしていってるだけってのが実情だったります。
いわゆる「深読み」というヤツです。
「深読み」には、
主に「歴史的解釈」と「精神分析的解釈」との2つの解釈方法があります。
歴史的解釈ってのは、その名のとおり物語が書かれた時代背景を考慮しつつ
物語中のさまざまなオブジェクトが何を意味するのかを読み解いていく解釈方法です。
そして精神分析的解釈ってのは、やっぱりその名のとおり
精神分析学上での解釈法でオブジェクトが何を意味するのかを読み解いて行く方法です。
・・・まんまですね。
しっかし、困ったことに
異なるこれら2つの読解法というのは、まったく違った結論を出すことが少なくないです。
ここでは「眠り姫[注4]」に登場する「糸巻き棒[注5]」というアイテムを例に
歴史的解釈と精神分析的解釈で生じる差を見てみましょう。
まずは、歴史的解釈。
前近代のヨーロッパでは、女の子は12、3歳から14、5歳で、 親の決めた男性と結婚することになっていました。 (中略)しかし、15歳といえば、恋多き年頃、 親の意に反するような男性と恋をしたり、駆け落ちしたり、 といった大胆さを発揮するような年齢でもありましたから、 王女がそうしたいと申し出、王や王妃がなんとしてもこれを押しとどめようとしたのかもしれません。 中世のヨーロッパでは「紡錘」は、女性の典型的な持ち物として女性そのものを象徴しています。 さらに女系親族を暗示し、あるいは女性の仕事、女性の自由な意思を象徴しています。 ドイツでは近年まで、花嫁行列の際に用いる馬車に糸巻き棒を立て、 それに飾りや果物を吊るして運んだということです。 このメルヘンの主人公が紡錘を手にしたこと、およびその結果長い眠りに就かざるを得なかったことは、 (中略)結婚についての自己主張と、これをめぐる家のなかのもめごとを暗示しています。 |
一方、精神分析的解釈だとこんなになります。
糸巻き棒の正体は原作の中の 「そんなに楽しくてブンブンと飛び回るなんて、 いったいどういうもの(Ding)かしら」という姫の言葉から明らかになるという。 ドイツ語で男性性器は俗語で「いちもつ(Ding)」とか「おれの(mein Ding)」と言い表されるというのだ。 (中略)糸くり車の紡錘をその形から見て、ペニスの象徴だと言った。 (中略)螺旋階段は夢の中では性的体験を表し、鍵のかかった小部屋はしばしば女性器を表すという。 鍵を鍵穴に差し込んで回すのは性交を象徴するとしている。 フロイトの弟子の女流心理学者マリー・ボナパルトは 糸繰り車の紡錘はペニスではなく、「陰核」の象徴であると主張している。 原作の中で糸をつむぐ老婆を見て、 「まあ、面白そう。何をしているの?わたしにもできるかしら?」と興奮して叫ぶ姫君は、 自らの肉体の快楽の中心を発見し、マスターベーションというこれまで知らなかった面白い「遊び」を発見したのだ。 また、眠り姫の類話は数多いが、いずれにしても共通している主たるテーマは、 「親がどんな手段を尽くしても、子どもの性の目覚めをおさえることはできない」というものである。 |
どちらの分析が正しいのかはわかりませんが、
「精神分析的解釈」のほうが人気がありますし、童話の解釈方法としてはコチラの方がよく利用されます。
たしかに、後者の解釈は楽しいですね。はい。
・・・でも糸巻き棒でマスターベーションできますか、アナタ?
有刺鉄線爆破デスマッチ[注6]より過激です。
こんなクイズ知ってますか?
「毛のついた長い棒を振り回し、身体の一部に突っ込んで出し入れする。
人によっては血が出ることもあるが、それをした後はスッキリして気持ちがいいものは何でしょう?」
残念ながら答えは「歯磨き」です(「耳かき」と答えたバイオレンスな人[注7]もいましたけど)。
これは「大人のクイズ」ってやつですね。
大人はそういう方向に考えてしまうのが普通なんですわ。
「眠り姫」にしても「姫」「思春期」「棒」という単語を羅列すれば、
なんかロリコン[注8]物のAVみたいですよね。
けっきょく童話を深読みするのは、子供じゃなくって大人なんです。
大人が勝手な解釈をして喜んでるだけです。
そこが落とし穴です。
たしかに童話は素朴心理学の集大成とも言えます。
「うさぎとかめ[注9]」の物語にしても、うさぎの気持ちってのはよーくわかります。
でも、本来物語は「物語」として存在することで終始自足しているはずです。
「物語」はあくまで「物語」なんです。
それ以上でもそれ以下でもない。
普通に童話に触れるのなら、本来は無駄な「深読み」の必要もないんです。
童話の物語が楽しけりゃそれでいいと思いませんか?
たしかに童話にはテーマやメッセージは存在します。
でも、それを受け取るだけでいいんじゃないですか?
誰かから手紙をもらったとき、
その人の文章から深層心理を解析しようとしないでしょう。
そんなことをするのはせいぜいストーカー[注10]くらいのもンですよ。
「深読み」には際限がありません。
いくらでも勝手に物語を想像、解釈できるンです。
そしてもうひとつ落とし穴。
歴史学的解釈をするには、さまざまな文献が必要でありその作業は骨が折れます。
ところが精神分析的解釈は、人が自覚しにくい「深層心理」を崇める傾向が強いので、
テキトーに「深層心理に性的欲求がある」と言ってしまえば大抵のことが片付けられるのです。
心理学マニアのワタシとして、精神分析的解釈が完全に間違ってるとは言いませんが、
深読みのほとんどが下の方向でテキトーに解釈されてる事実には、ちと目に余るものがございます。
〜今回のポイント〜 |
過剰な深読み&思い込みは、すンごい勘違いを生みます。 |
[注1]癒しブーム:
これの発端は95年頃だと言われている。
火付け役になったのは「脳内革命」(サンマーク出版)。
アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」の大ヒットもこれに関与していた。
・・・というのは、おエライ学者さんの弁。そうですか。
[注2]葉っぱのフレディ:
98年10月に出版。
2年ほどで絵本としては異例の80万部を売り上げたヒット作。
ただし、その主な購買層は中年サラリーマン。
一枚の葉っぱであるフレディが自分の人生を通して「死とは何か?」を考える物語。
主人公フレディが、リストラされたサラリーマンと非常によく似ていると思うのはワタシだけでしょうか?
[注3]チャイルドプレイ:
ここでは「赤ちゃんプレイ」と同意義。お父さんに聞いてください。
[注4]眠り姫:
詳しいことは、ディズニー映画の「眠れる森の美女」を観てください。
[注5]糸巻き棒:
上に同じ。先が尖ってて非常に危ないです。
[注6]有刺鉄線爆破デスマッチ:
詳しいことは、プロレス好きの友人に聞いてください。
きっと想像以上に詳しく、そして熱く(=暑苦しく)語ってくれることでしょう。
運が悪ければ、その後、関係ない話も聞かされる可能性もあります。
そうなった場合はタイミングを計って上手く逃げ切りましょう。
[注7]バイオレンスな人:
小学校の頃からの悪友M山クン(仮名)のこと。
中学校時代、学年で最もスケベだと言われた男でもある。
[注8]ロリコン:
ロリータコンプレックスの略。
性的衝動として、少女・幼女を愛すること。
小説の女主人公の名前が由来。「おぢさん」とほぼ同意義。
[注9]うさぎとかめ:
「グリム童話」に収録されている、すごく説教くさい童話。
イソップ物語で似たような話に「アリとキリギリス」というのもあります。
[注10]ストーカー:
すごく熱い情熱を持ちながらも
その使い道を誤っている人たちのこと。
精神分析学上では「ハッカー」や「マッドサイエンティスト」と共通項が多い。