ソリッドランナー
RPG  97.3.27発売  アスキー

 


  高校数学の「確率・統計」の世界にロマンを感じたことがありますか?
 などと言うと、思わず引いちゃうかもしれないけども、
 「確率・統計」の世界には人知を超えた「何か」があるように思わせてくれます。

  たとえばジャンケンの場合、
 グーとチョキとパーの強さは同じで(3すくみの関係が成り立っている)
 グー・チョキ・パーが出される確率というのは、理論的には1/3(33.3%)になるはずですよね。
 でも、実際のデータ(統計)をとってみますと、数値は微妙なズレを見せてくれるのです。

  貴方がジャンケンをする場合、何を基準にしてグー・チョキ・パーを決めますか?
 今まで最も勝率の高いものを出しますか?
 それとも相手の傾向を考慮してから出しますか?
 考えねぇよなぁ、フツーは。
 つーか考えること自体、無意味に近いのですから。

  ジャンケンにおいて、グーの出される確率は1/3で、
 グーで勝つ場合ってのは、全体の1/9でありますよね(※タイマンの場合)。
 で、もしグーの出される確率がイチバン高くって、かつ最も勝率が高かったとします。
 ジャンケンをする人たちの中で「グーがイチバン強い」という事実が浸透していた場合、
 誰もがグーを出すと思いますか?
 答えは「ノー」ですね。
 なぜなら、グーの出率・勝率がいちばん高ければ、
 チョキの出率を上げることで、チョキの勝率を上げることができるからです。
 以上のことから、ジャンケンには統計がほとんどアテにならない理由がわかります。

  1つは、単純なルール、選択肢の幅が少ないことによって、力の均衡が保たれている。
 2つは、ジャンケンが持つ特性(攻撃性がゲームのメインなので、ジャンケンには防御行為というものが存在しない)。
 3つは、絶対的な強さが存在しないことから、
 統計のデータ数値は変動しやすく、そのデータは常に33.3%の近似値を示す。

  ところがどっこい、ご存知のとおり、
 こういうジャンケン理論の考察は、日常生活ではまったく役に立ちません。
 なぜなら、日常生活における戦略的行為を行おうとした場合、
 必ず最初から著しい「強さの差」というものがあるからです。
 ジャンケンのような戦略ゲーム理論の研究は、学問としてあるものの
 (なんでも、ここ最近のノーベル経済学受賞ってのはほとんどがこの理論についてらしい)
 まず前提とされているのは、
 「相対するAさんとBさんがいた場合、
 AさんとBさんの立場(強さ)は
最初から異なっている」なのです。
 なぜなら、AさんとBさんがまったく同じ条件だったとすれば、
 ジャンケンの統計が常に33.3%の近似値を示すのと同様に、
 戦略的思考の価値がはじめから無いからです。

  ・・・と、
えっらい小難しい話になりましたけども、
 「ソリッドランナー」をプレーしてたら、ついついこんなことを考えてしまうのです。

  「ソリッドランナー」は、
 すでにロクヨンが登場していた97年のスーファミ晩期時代に
 今はなきアスキー(現エンターブレイン)から発売された近未来が舞台のRPGです。
 96〜97年のスーファミ晩期には、それまで発売が控えられてたソフトが、そりゃあもう大量にリリースされました。
 ソフトの質自体にはそりゃいろいろ差がありますが、
 スーファミ晩期のソフトには
ある共通点がございます。
 それは「出荷本数が少なくて、一般的知名度が低い」です。
 ですから、スーファミ晩期ソフトというものは
 ほとんどの場合「マイナーゲーム」という特徴を持っているです。
 そんでもって、そんなマイナーゲームで質の高いものは、
 ワタシのような中古ゲーマーが「捕獲」する対象となるのです。

  しっかし「ソリッドランナー」は中古ゲーマーの対象にはならなかったのです。
 なぜなら、コテコテの中古ゲーマーたちを唸らせるほどのパワーを持っていなかったからです。
 
哀れなり、「ソリッドランナー」。
 しかも「ソリッドランナー」の情報をインターネットで探しても、
 名前だけは出てくるものの、具体的な情報はまったくのゼロ。
 中古ゲーマーの間ですらその知名度は低いのです(
つまり、どうでもいい)。
 ですがワタシは、「ソリッドランナー」が
 
戦略ゲーム理論の基礎が凝縮されてる、
 
知的好奇心を激しく刺激するゲームだと考えております。

  「ソリッドランナー」の背景になっているのは、22世紀の南アフリカ大陸。
 赤道すぐ近くに位置するオルビセルスという国の都市
 「ソリッドシティー」が舞台になっております。
 南アフリカの都市つっても、イメージしづらいかと思いますけども、
 その姿は映画「
ブレードランナー」の香港や、
 世界のコジマ氏の名作ゲー「
スナッチャー」での神戸市のような感じです。
 ですからマフィアはいるわ、当然麻薬も流れております。
 で、さらに遺伝子科学によって生み出されたバイオモンスターやら、
 サイコダイブがどうこうとか、サイバーパンクがうんぬんかんぬん、
 まぁ近未来SFのエッセンスがチャンポンになったような都市ですわ。
 とにかくソリッドシティーは、
何でもアリの都市なんですね。
 はい。

  そんなソリッドシティーで、主人公は「ランナー」と呼ばれるパワードスーツを着て、
 いろんなトラブルを解決する「探偵」なのです。
 
マニアが喜びそうな要素を全部持っている設定ですね。
 うん。

  で、RPGということで
 もっともピックアップすべき点は、その独自の戦闘システムであります。
 このシステムに、前述した戦略ゲーム理論の基礎が組み込まれているのです。

  まず、戦闘は1対1の同時行動で行われます。
 フツーのRPGの戦闘ならば、1ターンの間に先行・後攻が交互に攻撃を行いますね。
 さらにフツーの場合なら戦闘中の攻撃方法は1種類だけですが、
 「ソリッドランナー」には
3種類の攻撃方法があります
 (接近攻撃:格闘用武器で接近攻撃を行う。
 精密射撃:その場に静止して射撃を行う。
 移動射撃:移動しながら射撃を行う。・・・という具合)。
 で、この3つの攻撃方法がジャンケンのように3すくみの関係になっているのです
 (接近攻撃は精密射撃に強いが移動攻撃に弱い、など)。
 ・・・と、ここまでなら冒頭に書いたジャンケンとは何も変わりませんね。

  「ソリッドランナー」の場合は、
 
自分が攻撃すると同時に相手も攻撃してくるので、
 相手に攻撃するということは、
イコール自分もダメージを受けるのです。
 つまり、敵に攻撃するときには、
 
相手に与えるダメージ効率だけでなく、
 自分の被害度も考慮しながら行動しなければならないのです

  で、さらに接近攻撃・精密射撃・移動射撃の攻撃は、
 それぞれの行動に対する
 攻撃力・防御力の効果もそれぞれ違うのです
 (たとえば
接近攻撃は、精密射撃に対する攻撃力が大きい反面、
 それに伴う被害度もけっこう大きい
 一方、移動攻撃は
全体的に防御効果が大きいが、
 接近攻撃以外に対しては攻撃力が小さい、など)。

  で、この3種類の攻撃方法のダイヤグラムを作ってみたら、
 接近攻撃の加害・被害度比率は、
6:7
 水平射撃なら、
7:6
 移動射撃だったら、
5:5という結果が出ました。
 つまり、それぞれの攻撃方法の決定的な性能差があるのです。
 事実上、これらの攻撃方法に3すくみの関係が成立していますが、
 その
強さの関係は絶対的なものではないのです。

  その戦略性をさらに奥深くさせるのが「防御」という行為です。
 敵の中には、射撃の攻撃力が低くても接近攻撃が超強力という奴もいます。
 こういう場合は、
 本来なら接近攻撃に強い、移動射撃がベストなはずです。
 しっかし、いくら接近攻撃に対して移動射撃がベストだっつても、
 
自分が受ける被害度を考慮すれば、 
 敢えて「防御」行為をとる必要もあるのです。

  と、ここまでジャンケン理論が進化した
 「ソリッドランナー」の戦略的ゲーム理論を展開しましたけども、
 
ひとつだけ破錠している点がございます。
 戦略的ゲーム理論がそのまんま当てはまるゲームジャンルは、
 プレーヤー同士の読み合いがアツイ「対戦型格闘ゲーム」ですよね。
 しっかしRPGの場合は、戦闘を何回も繰り返すので、
 いちいち
格闘ゲームのような読み合いは不釣り合いなのです。
 それに、格闘ゲームの場合は対人間戦なのに対して、
 
RPGは相手がコンピューター
 コンピューターを相手に、何回も読み合いなんぞしてたらゲーム自体がマンネリ化してきます。
 そこで「ソリッドランナー」では、
 
あくまでプレーヤー優位というゲームバランスをもって戦略性を実現しています。

  どのへんがプレーヤー優位なのかと言いますと、
 それは「
敵の行動パターンは常に一定である」という点です。
 たとえば、Aという敵なら「直接攻撃→精密射撃→移動射撃→直接攻撃・・・」って感じで、
 敵Bなら「直接攻撃→直接攻撃→防御→直接攻撃・・・」って具合に
 
ある一定の順序でしか行動しないようになっているのです。
 つまりプレーヤーは、どういう敵がどんな行動をしてくるのかを把握することで、
 常に絶対的優位に立つことも可能なのです。
 それでも「いかにダメージを受けなくするか」を前提にゲームバランスが取られているので、
 「有利で当たり前だ!」と思ってしまうンですけども。
 だって、
ゲーム序盤のバランスはけっこう厳しいンですもの。

  本来のRPGならば、少々ダメージを受けようが
 お金を払って宿屋に泊まれば受けた被害は帳消しになります。
 でも「ソリッドランナー」の場合は、
 原則的に
依頼を解決することによって 
 はじめて報酬を得られるシステムになっているので、
 「いかにダメージを少なくして敵を倒すか?」を守らない限りキツイです。
 ついでに、敵のくれる経験値にバラツキがあるので、自分の被害を抑えるためには
 戦う敵を選びながら(経験値の少ない敵から
逃げながら)ゲームを進めなけりゃいけません。
 さらに序盤だから
金は少ないわ、
 けっこう
敵は強いわ、戦い方はわからンわで
 
そりゃあもう大変です
 ついでに
無意味に武器の種類が多いので、ますます混乱すること請け合い。

  ハッキリ言います。
 「ソリッドランナー」の
敷居はかなり高いです。
 しっかし、「ゲーム」と謳いながら
 ゲーム性が低いものが少なくないこのご時世、
 
学問としてのゲーム性を満喫させてくれるこのソフトはかなり貴重です。
 それとも、こんなこと言ってるワタシって、
 
ただのマゾですか?