バトルピンボール
  95.2.24  バンプレスト


 




     アナログゲームが持つ本質的な意味での楽しさにあふれた
     アメリカ生まれの遊戯機械です
     直径約1インチの鉄球が混沌の中で跳ね回る
     とてもとてもエキサイティングなゲームなのです
         (講談社アフタヌーンKC  とよ田みのる著 「FLIP-FLAP」より引用)







  明日に向かって打て!!


 イキナリですが、
全国のピンボール好きのみなさん、ごめんなさい

 僕は「ピンボール」というゲームジャンルそのものを
心の底からバカにしてました
 ピンボールの
何が面白いのかが、まったく理解できなかったからです。


 上から落ちてくる
ボールを左右のフリッパーで打ち返すだけ
 
たまにボーナスが得られる場所に入ればラッキーで、
 
理不尽死+突発死が訪れる……。
 そんな「
ただの運ゲー」だと思っていました。

 ゲームのシステムが
ボールを打ち返すだけというシンプルすぎるもの故に、
 プレーヤーが介入できる要素が
フリッパー操作だけというシンプルすぎるもの故に、
 「ピンボール」というゲームジャンルの知名度の高さと
 
その面白さをまったく知らない個人的主観とのギャップに苛む人生も送ってきたのです。

 …だってさぁ、みなさん感じたことありませんか?
 「ピンボール」ってジャンルって、
昔から進化してないゲームのわりに
 
なぜか未だにゲームソフトがリリースされているじゃないですか!!
 リリースされてるってことは、需要が見込まれてるってコトですけど、
 
何がどう面白いのかがイマイチ不明じゃないですか!

 「ピンボール」は、ゲームとしてはかなり原始的な部類に入り(※1)、
 あまりにもシンプルすぎてツマラナイのに、
どういうわけか滅びていない
 そんな
ゴキブリのようなゲームジャンルだと認識しておりました。

 ちなみにピンボールは、アメリカ生まれのゲームであり、アメリカ〜ンな文化そのもの(※2)であります。
 
アメコミ好きの日本人が少ないのと似たようなもンで、
 本場アメリカでのピンボールに対する認識を、僕たちが
理解できないのは当然
 だから、ピンボールの面白さを知っている日本人ユーザーが少ないのは、
あたりまえのことなのです(※3)。

 もう一度、はっきりと言います。
 
僕はピンボールの面白さがわかりませんでした
 
何が面白いのかを理解できなかったのです

 ※1…ピンボールが誕生したのは1947年。
 ※2…当時はまったく気付かなかったが、ピンボールのゲームソフトの多くは海外輸出することが前程になっている。
 
※3…かつては国産メーカーもピンボール筐体を作っていたことがあったが、業績不振により早々と事業撤退した。







  
明日に向かって打ち返せ!!


 てなワケで、時は2009年7月。
 「ピンボールの何が面白いのかがわからないなら、
 
その面白さがわかるまで、徹底的に向き合うことにしよう!」
 などというよくわからないアクションを起こすことにしました。
 もちろん向き合う相手は、ゲームソフトのピンボールではなく、
 
ゲーセンに置いてある生マシン筐体(※4)の方でございます。

 
 
たまたま最初に触れ、不覚にもハマってしまったマシンは、今は亡きデコ社の1992製の「StarWars」。
 ハマッた理由とか、カッコ良すぎるFM音源サウンドとか、偏りまくったゲームデザインなどについて語りだしたら止まらないので省略。
  (画像をクリックすると、このマシンを紹介した動画にジャンプします)



 ただひらすらにわけもわからずピンボールに触れ、後にドップリとハマることによって得られた結論、
 つまり「
ピンボールの面白さとは何か?」という疑問に対する答えは、以下のようなものとなりました。

  ・ピンボールの目的は「スグに死ぬゲームでハイスコアを叩き出す」こと
  ・死なないために必要なことは、「死ぬ原因」の抽出→排除
  ・突然死につながる「不確定要素」を克服するプレースタイル」の確立
  ・狙ったポイントに打ち込むスキルと、跳ね返ってくるボールを必ずフリッパーに届かせる技術の体得

 ピンボールとは、
漠然とボールを打ち返すだけのゲームではありませんでした
 死なないための方法論を積み重ね、
 
反射神経と経験でボールをコントロールしていくゲームだったのです。

 確かに、生マシンのピンボールは
難易度が高いゲームです。
 慣れないうちは、
理不尽ゲーとしか思えないくらいの即死バランス(※5)を誇っています。
 しかし、プレーを積み重ねるにつれて
どんどん死ななくなっていくのです。
 ピンボールの楽しさは、己の思うがままに
ボールを制御していくテクニックとその発見、
 そして
そんな自分に酔いしれるところにありました。

 その面白さを何かに例えて説明するならば、
 
ビリヤードとスカッシュを足して割ったようなゲームといったところでしょうか。
 
高速で跳ね返ってくるボールを精密に狙い打ち返す……。
 ピンボールとは、そんなゲームなのです。

 ※4…幸運なことに、僕の住む街は地方都市ではまずあり得ないほどの生ピンボール設置状況だった。
 
    詳しくはhttp://www.tea-works.com/pl/を参照。
 
※5…生ピンボールに触れたことがある人の多くが、速攻でゲームオーバー→再チャレンジしてみようという気すら起こらなかった…のではないだろうか。






  
いいかげんそろそろ、スーパーファミコンのピンボールソフトの話をしましょう。


 
さて、ここで質問です。

 
スーパーファミコンで発売されたピンボールソフトって、全部で何本あると思いますか?

 答えは
5本です。
 
たったの5本しか発売されていないのです。


 最も有名だと思われるピンボールソフトは、
 92年にナグザットから発売された「邪鬼破壊(ジャキクラッシュ)」。
 
 
「ナグザットスーパーピンボール」シリーズの第3弾。知ってる人も多いはず。


 マニアから高く評価されているのは、メルダックの開発チーム:KAZe(※6)が手がけた
 「スーパーピンボール」の「1」と「2」。
   
 
左が「1」で、右が「2」。当時のKAZeはメルダックの下請け会社だったが、ファミコンの伝説的バカゲー「暴れん坊天狗」の開発元でもある。

 
※6…メルダックという会社自体は2001年に解散。「KAZe」は「KAZe net」と社名を改めて活動中。
    現在ではケータイアプリのピンボールソフトを多数リリースしているが、
    コンシューマー機で発売されたピンボールソフトに関わったメインスタッフはすでに「KAZe」から去っている。



 …それでも僕は豪語しましょう。
 
スーパーファミコンのピンボールソフト最もデキが良い作品
 「
バトルピンボール」に他ならないのだとッ!!


 
 
こいつが「バトルピンボール」だ!!


 えーと、はい。
 あー、「バトルピンボール」とは
 「SDガンダム」「仮面ライダー倶楽部」「ウルトラマン倶楽部」を題材とした
 
お子ちゃま向けキャラものゲームでございます。

 ……。

 
………。

 
…………。

 
 
コンパチヒーローズたちは、ドッジボールもやればレースもする。相撲に野球にサッカーに、果てはパチンコでも戦うのだ!




 …はいっ!そこのキミっ!!
 いま一瞬、
なんかガックリしなかったかッ!!?
 しょーじきに言いなさいっ!叱ったりしませんからッ!!!

 なぬぅ?
 どーせそのへんの
SDキャラを借りただけ子供ダマシなゲームに決まってるだとぉ?
 そんなゲームなんぞ
プレーする価値すら無いですとぉぉぉぉ?

 うむ、正直でよろしい!!
 かく言う僕も「バトルピンボール」に触れる直前までは、そういう
偏見の目でこのゲームを見てました。
 要するに
ぜんっぜん期待してなかったのです。

 
ところがどっこい、聞いて驚くことなかれ。
 「バトルピンボール」は、
高い完成度を誇るピンボールゲームだったのでありますがな!!




 おまけ:スーファミのピンボールソフトの中で、最もマイナーな作品のタイトルは「ピンボールピンボール」。
     もともとはアメリカのホビーパソコン:アミーガ
(※7)のソフトであり、アメリカのソフトハウスがスーファミに移植したものを
     ココナッツジャパンが日本ローカライズ版として発売した。

 
 
しかし、このソフトは本場アメリカ製にも関わらず、最悪を極めたと言っても良いほどの酷い内容となっている。

 ※7…
「ポピュラス」「レミングス」が最初にリリースされた機種なのだが、
     そんな説明よりも「ウゴウゴルーガ」のCGが製作されたマシンと言った方がわかりやすい。






  「キャラもの」という外見に騙されるてはいけません。


 僕が「バトルピンボール」に対して、いちばん最初に「
…おぉぉっ?」と思ったのは、
 
スピナー(※8)の存在を確認した瞬間でありました。
 
 
仮面ライダーステージの開始直後。画面右上に見える黒い物体に注目。

 「
スピナーが搭載されてるなんて粋だな〜しかもショッカー戦闘員かよ〜
 などと感心しつつ、よく見てみると、
 なんとこのゲーム、随所に
生ピンボールマシンを意識したデザインが施されているではありませんか!

 
※8…金属製プレートがクルクルまわる装置。ボールが通過することで高速回転し、回転数に比例してスコアが加算される。
    
このクルクル感が表現された作品は、この時代の家庭用ピンボールソフトには存在していなかった。
     
 拡大図。ホントにクルクル回るデザインがステキすぎる。


 たとえば
ランプレーン(※9)。
 
 
おぉっ、ライダーベルトをモチーフにしてるのかッ!!


 つぎに
クロスレーン(※10)
 
 
うおぉぉぉぉぉッ!!高架道路かよッ!!!


 そして
ボールロック(※11)からのマルチボール(※12)
  → 
 
ビルの屋上にボールロック!そしてマルチボール発動ッ!!!


 
 
ギャアァァァッ!マルチボール中にボール干渉(※13)してるぜ!

 
※9…ランプ(ramp)とは「傾斜」という意味。
     
坂道状になっているレーンのことであり、勢いよくボールを打ち込まないと坂道を駆け上がることができない。
     
ただし、「バトルピンボール」のプレーフィールドには高さの概念は無い)。
 
※10…フィールドを横切るように設置されたレーン。
     
このレーンを通ることで筐体内をワープするように移動できる、まさに高架道路的な存在。
     ギュインギュインと疾走するようなスピード感を演出する効果もある。
 
※11…特定のスポットにボールが入るとそのボールは保留され、別のボールが追加されること。
     
マルチボール(後述)に至るフラグを意味し、一定数の保留ボールが溜まるとイッキにフィールドへと放出される。
     
ちなみにフィールド上に視認できる形でボールロックされるゲームソフトは「バトルピンボール」が初。
 
※12…通常、フィールド上にはボールは1コしかないが、2コ以上のボールを打ち返さなければならなくなるモード。
     
このマルチボールモード中に特定のターゲットを狙うとボーナスが得られることが多い。
     
スーファミ製ピンボールでマルチボールが実装されているのは「スーパーピンボール」シリーズ、そして「バトルピンボール」のみである。
 
※13…「バトルピンボール」のマルチボール中は、処理落ちはするものの最大3コのボールがぶつかり合う。じつはコレ、かなり凄いことなのである。
     
「スーパーピンボール1」のマルチボール数も3コだが、ボールがぶつかり合いまでは再現しきれておらず、
     
「スーパーピンボール2」に至っては、処理落ちさせないことを優先するためにマルチボール数2コ+ボール干渉ナシという仕様となっている。


 …僕は確信しました。
 「バトルピンボール」には、
ピンボールに対する愛が込められていることを!
 低年齢層をターゲットにしたキャラゲーではあるけども、そんな外見とは裏腹に
 
中身はかなりしっかりしたデキだということをッ!!

 





  注釈が多くてごめんなさい(本文とは直接関係ありません)。


 この世の中で、ここまで「バトルピンボール」をベタ褒めする人はいないかもしれません。
 あまりにも大絶賛しすぎなのかもしれません。

 そりゃあ「バトルピンボール」にも悪い点はありますよ。
 ボール挙動なんかは
リアルさとはかけ離れていますし、
 
せっかくのマルチボールもゲーム中での存在意義がありません(※14)。
 
ボールがフリッパーをすり抜けてしまうバグ(※15)がけっこう頻繁に起こるので、
 そういう雑な部分が許せない人もいらっしゃることでしょう。
 
スコアを稼ぐことではなくボスを倒すこと(※16)が目的である
 本作のゲームデザインに否定的な方も多いかとも思われます。

 
※14…90年代以降の生ピンボールでは、マルチボール中に「ジャックポット」と呼ばれる大量ボーナスが得られるシステムが主流である。
     従って、ジャックポットこそが主なスコア源となる。しかし「バトルピンボール」には
     ジャックポットが存在しないうえにマルチボール中になんらかの特殊モードが発動するということも無い。

 
※15…ただし、ボールが下から上に向けてすり抜けるだけなので、ゲームプレーに支障をきたすことは特に無い。むしろラッキーである。
     ゲーム難易度を下げる為に意図的に組み込んだバグの可能性もあるがさすがにそれは邪推し過ぎというものだろう。

 
※16…生ピンボールは「ハイスコアを叩き出す」のが目的のストイックなゲームである。
     しかし「バトルピンボール」の場合はそうではなく、「ステージ最上層部に待ち構えているボスキャラを倒すこと」が目的である。
     当然のことながら、ゲーム中でスコアを稼ぐ必要性が薄く、「ボールを上に打ち込んでいくだけのゲーム」と言われると、何も反論できないのである。



 それでも僕が「バトルピンボール」を推す理由は
 このゲームに
「ピンボールらしさ」が凝縮されているからであります。
 そして意外なことに、本作が誇る「ピンボールらしさ」とは
 数ある
家庭用ピンボールゲームの中で実現されていなかったことなのです。

 では「バトルピンボール」が実現した「ピンボールらしさ」とは、具体的にどのようなものなのでしょうか?
 それは
生ピンボールで使えるテクニックが再現可能であることでございます。

 「
なにをアホなことを」「そんなの当たり前じゃないの?」と感じる方もいらっしゃるでしょう。
 ですが、多くの家庭用ピンボールゲームでは
 その
当たり前であるはずのこと、どういうワケかことごとく無視されているのです。
 ヒドイ言い方をすれば、家庭用ピンボールゲームというやつは
 
その多くがバントでホームランしてしまう(※17)ようなものばかりなのですよコレが!!

 
しかし「バトルピンボール」は違うッ!!
 
リターンレーントランスファー(※18)が可能なのだッ!!
 
ストップショット(※19)もできるのだッ!
 
デフレクトパス(※20)もデッドフリッパーバウンス(※21)も使えるのだよッ!!

 
※17…バントでホームランするような野球ゲームが良作であるはずがないのは、周知の通りである。ペーボー。
 
※18…レーンを通過したボールの勢いを利用して、上げたままのフリッパーを滑らせるように反対側のフリッパーにパスする基本技。    
 
※19…落ちてくるボールを微妙なフリッパー操作で受け止めるテクニック。
 
※20…片側のフリッパー先端にボールを当てて軌道を変え、反対側のフリッパーが拾うこと。
 
※21…両方のフリッパーを下げたままボールを受け止めることで、フリッパー操作をしないでボールパスする技。


 「バトルピンボール」のボールアクションは、
決してリアルではありません
 
やたらと軽くてなおかつ実機よりも高速でボールが跳ね回ります
 
そいつを実際のピンボールのテクニックを駆使して扱っていくワケなのですね。
 
 
ゲームバランスが秀逸なロアステージ。ステージルールもシンプルでわかりやすい。

 
これがひっじょーに楽しい
 「ゲームならではウソ=
現実では味わえない楽しさ(※22)」が
 
ピンボールというジャンルで存分に発揮されているのです。

 ※22…リアル路線をわざと外したレースゲームを、リアルでないからダメだと言う人はそうそういないはず。


 ウソっぽくてもいいじゃないですか。
 楽しけりゃそれでいいでしょうが。
 むしろゲームなのですから、
楽しくなければダメでしょう!
 そういう気持ちのいい
開き直りが、本作からはビシビシと伝わってくるのです。

 スーパーファミコンのスペックでは実現不可能だった生ピンボールのリアルさを
潔く切り捨て
 ゲームとしてのピンボールの楽しさに昇華させた……そんな
ピンボールへの愛
 「
バトルピンボール」には満ち溢れているのです。


 んが、しょーじき言いますと、僕は「バトルピンボール」を
未だにクリアしてません
 気が向いたときに電源を入れ、気が済んだら電源を切る、
 そんな
ヤル気のないスタンスで現在に至っています。
 なぜなら本作をクリアするには、かなりのプレー時間を必要としますし、
 なにより
クリアすること自体を目的にするならば、
 このゲームは
あまり楽しいものではない(※23)からです。

 
※23…本作にはセーブ機能が搭載されていないので、クリアするには最初からブッ通しでプレーしなければならない。
     ゲームクリアを目指すならば、かなりのストレスと戦う覚悟が求められる。


 
 
下に落ちやすく、上には上げにくいガンダムステージ。プレーしてるとかなりイライラします。


 この
ゲームを楽しむために必要なことは、
 
ハイスコアを目指すとかクリアしようとするだとかの
 
ガツガツした気持ちを捨ててしまうことです。
 ダラダラとプレーを楽しむ呑気な心を持つことなのです。

 本作を評価する人はそうそういないと思いますけど、
中身は保障します
 純粋に
ボールで遊ぶ行為そのものが楽しめます
 
生ピンボールでは実現不可能なギミックも楽しめます

 「バトルピンボール」は、そんな楽しさが詰まった
 
極上最高のヒマつぶしゲームなのです。










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