エメラルドドラゴン
  95.7.28  メディアワークス


 



  
パソコン版からPCエンジン版。そしてスーパーファミコン版へ。


 「エメラルドドラゴン」は、
 89年にパソコンで発売されたRPGであります。
 コンシューマー機作品としては、
 アレンジ移植された
PCエンジン版(94年)が有名でございます。
 PCエンジン版「エメラルドドラゴン」は
 CD-ROM媒体ならではの大容量を最大に発揮すべく豪華なビジュアルシーンが追加されるわ、
 ついでに「天外魔境」の主要スタッフによってゲームバランスが大幅改変されるわで、
 「PCエンジンのRPG三大傑作」の1本として
非常に高い評価を得ております。

 そんなPCエンジン版「エメラルドドラゴン」を
ベースにして、
 95年に
スーパーファミコン用に移植されたのが本作であり、最後の移植作品でもあります。


 まずは、物語の導入部分をご紹介。


   人間とドラゴンが共存していた聖地イシュ・バーンに
   「龍族のままの姿でいると絶命する」という呪いが掛けられてから、2000年後のある日。
   龍族の住む地「ドラグリア」に、1人の人間の少女が流れついた。

   記憶を失っていた少女は、
   「清き者」という意味を持つ「タムリン」の名を与えられ、
   幼きブルードラゴンのアトルシャンと共に育てられることになった。

   10年が過ぎた頃、成長したタムリンは
   聖地イシュバーンに戻ることを決意。
   タムリンとの別れ際、アトルシャンは自らの角を折ると、彼女に手渡す。
   この角で角笛を作り、困った時には吹くように伝えて…。



 …とまぁ、「エメラルドドラゴン」のオープニングは
 こんな感じなのですが、
 本作の中身は、基本的に
おとこまえのオンパレードなので、
 とても華のある作りとなっております。

 
 
主人公のアトルシャン(おとこまえ)

 
 
仲間のハスラム王子(おとこまえ)

 
 
脇役のワラムルせんせい(おとこまえ)

 
 
敵のオストラコンさま(おとこまえ)


 …これで昼下がりの団地妻のみなさんも、思わずウットリ!!






  
そのショボさに、のたうちまわること必至!!

 
超豪華大作なPCエンジン版
 
スーパーファミコンに移植するという話を聞いて、
 皆様はどのようなことを考えてしまうでしょうか?

 「天外魔境」がスーパーファミコンで発売されたとき、
 期待しちゃいけないとわかっていつつも、心のどこかでついつい期待してしまい、
 そして
予想してたはずのガックリ感を味わった…
 そんな悪いイメージを抱いてしまったのではないでしょうか?

 ……ットラァ〜ィク!!
 イエッサイドゥー!
 CD-ROMからカートリッジという容量の制約をモロ受け、
 
大幅にグレードダウンされたのが、ズバリ本作なのであります。
 えー、はい。
 発生するイベントの数もカットされていますし、
 もちろん美麗なビジュアルシーンなんぞ
存在するはずもありません
 いわゆるひとつの
劣化移植というやつです。

 とは言えど、スーファミはスーファミなりにけっこう努力していて、
 サンプリングボイスで喋ってくれたりはします。
 もっとも容量の少なさゆえに、
 
むごたらしいほど低音質で聞き苦しいことこのうえないボイスなのですが。

 …そんな
泥臭い努力がたっぷりつまったボイスには、
 本作のツカミとしての役割が与えられたのか、
 
電源を入れた直後にさっそく堪能することができます。

 
 
この画面をバックにボイスが流れるのだ!


 そのボイス、
 「エメラルドドラゴン!」とタイトルコールするのですけども、
 よりによって
ゲームで最初に流れるこのボイスがですね、
 
低音質ボイス特有のドスの利いた声をしていて、
 
もンのすごく衝撃的なのですよ。


 
   「
えべらルぼゾラボん!!

 …微妙にタイトルコールできてません。


 こんな感じですから、スーファミ版の本作は
評価が低くとても低く
 PCエンジン版を体験したユーザーからは
 
ボロクソ扱いされているのも当然のことでありましょう。

 せっかくなので、その
ヘボさ具合明確にすべく
 オープニングシーンのある場面を
わざわざ比較してみようと思います。



 まずはPCエンジン版。

 
  
おもむろに己の角に手を伸ばすアトルシャン。

 
  
…ググッ…ミシミシ………バキッ!!!(痛そう)


 
 
「………!!!」と思わず絶句するタムリン。



 んで、こいつがスーファミ版。

 
  
アトルシャン「よっこいせ。」

 
  
アトルシャン「ポキッとな。」


 
  
タムリン「あらまー!!」



 ………その違い、
よくわかっていただけたと思います



 〜おまけ〜
 タムリンが角笛でアトルシャンを呼ぶシーンのPCエンジン版

 
 
ドラグリアに向かって、いざ角笛を吹かん!!な感じのムービー。 




 タムリンが角笛でアトルシャンを呼ぶシーンのスーファミ版
 (ボイスでアトルシャンの名を呼びます)
 
  
タムリン「アチョるしぇん・・・」(日本語訳:「アトルシャン…」)


  …名前を呼べてません。






  あさっての方向へ情熱ダッシュ!!

 PCエンジン版と比較してみると
 
徹底的な情けなさが漂うスーファミ版ですが、
 戦闘シーン
だけは大幅にパワーアップしていてたりします。

 どのへんがパワーアップしているのかと言いますと、
 パソコン版〜PCエンジン版には存在しなかった
戦闘イフェクト
 こいつのおかげで、しっかりとスーファミスーファミした戦闘になってますし、
 戦闘シーンのテンポもやたらと良くなっています。
 
  
本作の戦闘システムはタクティカルコンバット式ですけど、かなり快適でスピーディー。


 また、スーファミ版では戦闘シーンにもボイスが挿入されており、
 攻撃したりダメージを受けたりするたびに
 「
そりゃッ!!」「ぐわぁッ!!」とか
 「
でりゃッ!」「もわぁッ!!」などの血圧高そうな雄叫びを響かせたり、
 魔法をボイスつきで唱えたりするのですから、けっこう豪華なデキになっていると思います。
 …もっともその
ボイスのデキ
 前述のとおりけっこう
アレなので、
 魔法名を叫ばれたところで 
何を言ってるのかさっぱりわからないのですけども。

 余談ですが、スーファミ版では
 
魔法名を確認する方法がなぜかゲーム中に存在しておらず
 (戦闘中にしか魔法は使えない+魔法はAIでのみ発動
 +発動された魔法は視覚イフェクトでのみ表現という仕様のため)、
 マニュアルにも魔法についての表記はほとんどありません。
 そのくせマニュアルには、
 
本当にどうでもいいことばかりが書かれているので、
 バカゲー好きにとってはポイント高い仕上がりとなっております。


 本作全体に漂う
うわすべり感は、
 
本作の顔とも言えるイベントシーンにもバッチリ反映されております。

 PCエンジン版ならアニメムービーが流れてたりしてたイベントシーンですが、
 もちろんスーファミにはそんなことは
ムリなので、
 たまーに
グラフィックをカットインさせたり、
 低音質ボイスを
なんとなく挿入してみたり、といった
 かなりシンドイ方法を用いることで必死でカバーして…正直カバーできてませんけど、
 
とにかく必死なことは間違いありません。

 が、困ったことに、そんなグラフィック挿入やボイスつきのイベントシーンってのが
 「
よりによって、わざわざそこで使うか?」と
 
ツッコミを入れたくなるものばかりで、見事なバカゲー臭が漂っているのです。

 
 敵将オストラコンさま(いわゆるシャア)に襲いかかり、右腕を切り落とすアトルシャン。
 文字上では「ぐわぁーッ!!」と表記されているオストラコンさまのセリフですが、実際のボイスでは「のわっ!」と発音されているため、かなりマヌケ。




 その演出、例えるならば、
 まるで
ボタンを掛け違えていると言うべきか、
 
左右の靴下を履き間違えていると言うべきかッ!?


 
 中盤のハイライトシーン。リベンジに燃えるオストラコンさまとの決戦。
 切り落とされた右腕には悪魔の腕が移植されていますが、その描写はちゃっちぃドット絵のみなので、かなり小物くさい。
 このあとオストラコンさまは人外生物へと変化しますけども、これまたちゃっちぃドット絵で小物くささが3倍増し。
 左下のひっくり返ってる仲間は「へあっ!」というボイスで情けない悲鳴を聞かせてくれる始末。




 いやぁ、もうね、ことごとく空振りしまくる演出努力の数々には、
 
思わず笑いがこみあげてくること請け合いございますよ!!






  RPGがたどり着くかもしれなかった、もうひとつの進化形

 以上、「エメラルドドラゴン」の最終作でありながら、
 有終の美を飾るどころか
 
顔面に汚物を塗りたくったようなデキのスーファミ版の紹介でしたー。

 ……。

 …えー。
 
他機種版に比べて圧倒的にヘボいと言われる本作は、
 容量という制約ゆえにこれまでのバージョンにはあったイベントが削られていたり、
 全体的なボリュームダウンなど、
弱体化版という認識が主流なのは仕方のないことかもしれません。
 パソコン版にあったビジュアルシーンやPCエンジン版のアニメムービーなど、
 本来の「エメラルドドラゴン」のウリとも言える部分が
 完全にそぎ落とされているワケですから、そういった評価をされるのは
当然でありましょう。

 とは言えど、この場でネタにするくらいですから、
 僕自身は
スーファミ版「エメラルドドラゴン」を評価しています
 
とてつもなく高く評価しています

 それは、
 「
ビジュアルシーンが使えないのなら、他の方法で表現してしまえ
 という
ヤケクソ気味な逆転的発想
 ちゃんと真面目に実践している部分であります。

 目に見えてわかりやすい特徴である
 派手なデモが削られてしまった反動が大きすぎるために
 あまり注目されることはなかったスーファミ版ですが、
 じつはイベントシーンにおける
 
ドットキャラの演技の細かさがハンパでないのですよ!

 ということで、論より証拠。
 さきほど紹介しましたオープニングシーンをもう少し詳しく説明してみましょうぞ!!

 
 
…難破船を見つめて、たそがれるタムリン。 

 
 
わかりにくいですけど、タムリンはさっきとグラフィックが違います(下向いてます)。

 
 
そして、くるっと振り返り……

 
 
なにかを伝えようとする……。

 
 
去ろうとするアトルシャンの腕をガシッと掴んで…

 
 
振り返るアトルシャンに、人間の世界に戻ろうとしていることを打ち明ける。

 
 
突然の出来事に考え込んでしまうアトルシャン。

 
 
(中略)角を折ったあと、それを差し出し…

 
 
歩み寄ったタムリンが受け取って…

 
 
ギュッと抱きしめる………!
 



 …どうですか!
 PCエンジン版と比べると地味かもしれませんけど、
ものすごく細かいでしょう!
 その作り込みの細かさは、紛れもなくスーファミRPG最高峰のデキ
 後に発売されたどの作品よりも、イベントシーンの描写は細かいと信じて疑いません。



 ということで、個人的に名シーンだと思ってる演出をいくつかピックアップ。

 
 
みんなで丸太を抱えて城門突破!

 
 
存在感の薄い本作の敵幹部。ボコボコにされて武器を落としています。

  
 
敵の城を攻めるの図。兵士たちがカギ縄をブンブン振り回す!

 
 
魔王さま初登場のシーン。その絶大な魔力に圧倒されるアトルシャンたち!



 ドットキャラの演技と言えば、
 家庭用RPGでは「ファイナルファンタジーIV」が元祖だと勝手に思っているのですけども、
 記号表記的な表現にすぎなかった
ドットキャラが演技する場面を初めて見たとき、
 かなりの衝撃を受けた方も多いのではないでしょうか?
 かくいう僕は、
背後から股間に電気アンマ器を当てられた級の衝撃を受けたクチで
 「
RPG演出の進化は、演劇的方向に向かっていくに違いない!
 などと荒い鼻息をフンッフンッさせておりました
 (その後、RPGの表現手法がどのように変化していったかはツッコミ不可)。

 スーファミ版「エメラルドドラゴン」の魅力は、
 スーファミRPG作品群のなかで
どの作品よりも演劇的だという点に尽きます
 (事実、スーファミ版にのみ舞台演劇業界の人がスタッフとしてクレジットされている)。

 芸コマ演出が好きな人!
 ドット絵ゲーが好きな人!
 そんな
前世紀の遺物を愛する人たちならば、
 きっと本作の素晴らしさを満喫できるでしょう!

 

 
クソ評価されまくり
 
スーファミ版「エメラルドドラゴン」に最大の賛辞を贈るとするならば、
 僕はこんな言葉を捧げたいと思います。

 「
こんなゲームを待っていた!!

 









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