マグナブラバン〜遍歴の勇者〜
  94.11.18  アスク講談社


 



  
【こんなゲームもありました。】

 
マグナブラバン」は、とても変なゲームでございます。
 変なゲームと言いましても、まぁ何のことはない
平凡なRPGでございます。
 剣と魔法な世界を舞台に、少年が旅を通して仲間と出会い、
 そんでもって魔王を倒すという内容の
よくあるタイプのRPGであります。

 …いまのうちに言っておきますが、
 「マグナブラバン」は
欠点だらけのゲームです。
 同時期にリリースされた作品と比べても、明らかに見劣りしてる部分も多いです。
 原色ギラギラで目に優しくないグラフィックとか、
 どこかで聴いたことあるクラシック音楽のフレーズをまんまパクったようなヤル気のないBGM群とか、
 もう表面的な部分だけで
ダメっぷりがばっしばっしと伝わってくる…
 …そんなゲームだと思っていただければオッケーでございます。




  
【HPが減ったら回復させましょう。以上。】

 
RPGの顔、と言えば戦闘シーンございますけども、
 「マグナブラバン」の戦闘は、なかなか個性的な仕上がりとなっております。

 まず見た目のアピールポイントとして挙げられる部分は、
 本作の戦闘画面は「斜め見下ろし型視点(クォータービュー)」ってコト。
 「えー、そんなの他のゲームでもフツーにあるでしょー」と思ったアナタは
 「オウガバトル」や「ブレスオブファイア」あたりを連想したかもしれません。
 しかし「マグナブラバン」の戦闘シーンは、そのへんのクォータービューの
を実践しているのであります。

 思い出してみてください。
 クォータービューの戦闘シーンを持つ作品たちが
 どれもこれも
右から左視点で描かれていたことを(プレーヤーが右下で、敵は左上という構図)!!
 「マグナブラバン」の視点は、それの

 つまり左から右視点という
妙な部分で自己主張の強いデザインなのです
 (製作者の主張によれば、人間の視線は左から右へと移動するものであり、
 横シューティングゲームや格闘ゲームにおける1P側の立ち位置などもこの思想の下にある、とのコト)。

 …見た目デザインの(しょーもない)こだわりは置いといて、
 戦闘システムも、そのへんのRPGとは一線を画したい!って想いが
 
なんとなく伝わってくるシステムとなっております。
 そのシステム特徴をざっと挙げますと
 ・プレーヤーが予め指示した作戦に従って繰り広げられるセミオートバトル。
 ・戦闘シーンには、時間・距離の概念がある。
 ・フィールドにはタテヨコ軸の概念があり、同じタテ軸上にいる敵しか攻撃できない。
 ・指示できる作戦内容は、1キャラにつき5パターン。
 ・戦闘では、戦局に応じてプレーヤーが任意でキャラの行動を切り替える。
 …ってな感じです。

 これが「マグナブラバン」の戦闘システムの特徴ですが、
 「お、なんか戦略性ありそうで面白い戦闘システムなンじゃないの?」と
 一瞬でも感じてしまったテレビの前の奥様、
騙されてはいけません
 「マグナブラバン」の戦闘には
戦略性のカケラもありません

 システム上、行動指示できる設定項目が曖昧なためにキャラが思い通りに動いてくれなかったり、
 戦闘自体が同タテ軸にいる相手とのドツキ合い仕様なため
 プレーヤーの戦術が介入する余地がほとんどありません。
 おまけに戦闘中でもフィールド画面と同じように
 アイテムメニューを開いて回復が行えるという
投げやり設計なので
 眺める→ピンチになったらメニュー開く→回復する、という具合に
激しく作業的だったりします。
 その内容、
チャレンジ精神いっぱいの戦闘システムを
 
製作側が自ら台無しにしてしまったようにすら思えるほど。
 いわゆるひとつの
自産自消スタイルとかいうやつです。




  【酒!!酒!!酒!!】

 
ところがどっこい「マグナブラバン」は、ごく一部のひとたちの間で猛烈な支持を得ています
 (もちろん僕も、猛烈に支持するひとりであります)。
 本作が誇るウリは、
シナリオであります!
 その内容、ありとあらゆる
ゲーム的欠点を帳消しにしてしまうほどのシナリオでございます!
 つまり本作は、
シナリオ重視型RPGというワケなのです。

 「シナリオ重視」という言葉から、皆様は何を連想しますか?
 練り込まれた世界観、心揺さぶる人間ドラマ、散りばめられた伏線、
 ド肝を抜く意外な展開、プレーヤーに投げかけられる様々なテーマ、
 そしてラストで収束していく壮大な物語…などなど。
 そんな感じの凄いものを思い浮かべるのではないでしょうか!!

 …ご安心ください。
 「マグナブラバン」のシナリオには、
そんなご大層なものはありません
 よくある「剣と魔法の世界」で、少年が魔王を倒すために立ち上がり、
 いろんな仲間とのふれあいの中で成長していき、
 旅の途中でいろいろあるけど、最後はめでたくハッピーエンド。
 そんな
王道的シナリオのド真ん中を突っ走ったシナリオであります。

 

 「マグナブラバン」のシナリオは王道ではありますが、
ぜんぜん普通じゃありません
 言うなれば、王道的シナリオという直線道路を
 
フルスロットルでアクロバティック走行をしているようなものですか!
 走っているには走っているけど、その走り方が
明らかにおかしいのです。

 ということで、他に類を見ないレベルのおかしさを誇る、本作のオープニングをご紹介。



 「マグナブラバン」の物語は、
 「一人前の騎士」になることを夢見る平凡な少年が
 年に一度の武闘大会に出場するところからはじまります。
 で、武闘大会に出たはいいけど、マッハでボコボコにされて
 理想と現実とのギャップを噛み締めるワケです。

 そのつぎにどんな展開になるのかと言いますと、
 なんと
ヤケ酒
 主人公と同じように、アッサリやられた奴らに(強引に)誘われて
呑み会開始。
 おたがい負け犬同士な故か、それとも酒のチカラ故なのか
 彼らは意気投合し、くだをまいたり、愚痴を言ったり、身の上バナシをしたり…と
 
ある意味リアルな展開が繰り広げられます。

 その瞬間!魔王軍が襲撃してくる!

 ヨッパライ状態でかけつけた主人公たちの眼前に広がるのは、兵士たちの死体死体死体!
 時すでに遅し。
 
ヨッパライ主人公たちは、何もできなかったのです…。

 で、何もできなかった→戦闘に参加しなかった→かすり傷ひとつ負わなかった主人公たちは
 かなりのツワモノだと
勘違いされて(ヨッパライ状態のまま)王様との謁見。
 
酒呑みすぎで吐きそうになりながら
 王様から正式な「騎士」の称号を棚ボタでもらうハメになったのでした。



 …ってな具合に、本作の物語は
によって幕を開けるワケですけど、
 ひとシゴト終えたら
を呑むわ、
 おつかいで持ってくるように言われた秘薬を
とすり替えるわ、
 何の脈絡もなくイキナリ
の話題が出てくるわで、
 とにかくもう、
酒!!酒!!酒!!な展開が繰り広げられるのです!




  【RPG史上最弱の勇者キャラに、愛という名の男汁を注ぎ込め!】

 本作のシナリオを手掛けた人は、じつはれっきとした脚本家である。
 その脚本家が酒好きかどうかは不明であるが、
 
酒呑みながら考えたとしか思えないような
 
アナーキーでヨッパライな仲間が登場しまくるのが
 本作における最大の魅力と言っても過言ではないでしょう!!

 なかでも最も強烈なキャラクターは、
 中盤で仲間になる「伝説の勇者の子孫」という設定のキャラクター。
 …その名前がですね、
かなりヤバイのですよ。


 
勇者ロトト


 …勇者ロトトは、勇者の末裔というだけあって
 勇者としての心得はしっかり備えた典型的なヒーロー体質ですし、
 
説明書のイラストでは、すげぇ男前像に描かれております
 でもキャラ性能は、
パーティで最弱、しかも群を抜いて弱すぎる
 もっと正確に言うならば
足手まといにしかならないという
 なんとも
過激すぎる設定なんですね、コレが。

 そんなロトト、勇者の名に恥じぬ勇気とか誇りとか優しさなんかは
 パーフェクトに持ち合わせた人物であります。
 しかし困ったことに、彼は
頭が悪いうえに実力も無
 そのくせ血筋の影響か体質か才能か、イベントシーンでは本能的に
 
オイシイところだけをちゃっかり持っていってしまったりする始末
 …現実世界において、↑こういう人は「他人の手柄を自分のものにする奴」などと呼ばれ嫌われるものですが、
 ロトトの場合は
その自覚症状が無いノリの良さでカバーしています。
 さすが勇者。

 「腐ってもタイはタイ」という訳ではありませんが、
 勇者な
彼は、他キャラには無い特権を持っています。
 その特権とは、
勇者専用アイテム(「ゆうしゃのけん」とか「ゆうしゃのよろい」とかいうアレ)を
 装備できるということ!!
 そう!!
勇者な装備こそ地上最強の武器防具ッ!!
 「マグナブラバン」の勇者アイテムも、当然もちろん有無を言わさず地上最強の性能ッ!!
 そしてロトトは、それらを纏うことによって
 初めて
勇者としての真価を発揮してくれるのだッ!!
 …もっとも、ロトトに地上最強の装備を与えて
初めて戦力になるということは、
 
それが無ければ戦力にならないことを意味してるワケですが。

 まぁ他にも、地上最強
勇者グッズがスタート地点のそばで売られているとか、
 
序盤で買い逃すと一生手に入らないとか、
 そいつは序盤の時点では
法外な値段で売られているとか、
 苦労して勇者グッズを手に入れたところで、当然ロトト以外には使えないとか、
 そんなロトトが仲間になるのは
だーいぶ先のハナシだとか、
 とにかくいろいろな
落とし穴がイッパイ用意されておりますので、それなりの覚悟はしておくべきでしょう。
 まぁそんな
くそったれ仕様こそが、いかにも本作らしい部分なのですけども。




 
【ダラダラなるままに。】

 もう一度言いますが、「マグナブラバン」は欠点だらけのゲームであります。

 戦闘シーンには戦略性もクソも無く、
ダルイです。
 
エンカウント率もやたらと高いので、すげぇイライラします。
 
キャラの移動速度もチンタラ遅いので、さらにイライラします。
 しかも本作に登場するダンジョンは全部が全部、
 ギミックはおろか
宝箱すら存在しないという超プレーン風味なので、もっとイライラします。
 そのくせ
序盤から「迷いの森」が登場する始末ですから
 思わず
本気でプレー放棄したくなること全裸で保証つき。

 ですが、そういった欠点を冷静になって考えてみると
 そのほとんどが、
ゲームテンポの悪さに原因があることに気づきます。
 ゲームテンポが悪いからイライラするし、
かったるいということなのです。

 本作が備え持つ
かったるさ乗り越えるために
 個人的に推奨したいのは、「
ながらプレー」(たとえば雑誌読みながらとかオナニーしながらとか)。
 なかでもイチオシなのが、
酒呑みながらプレー
 酒を片手に「戦闘つまんねーなー」とか「ダンジョンだりーなー」とか
 「この音楽パクリくせぇなー」とか「グラフィック粗いなー」とか
 「ゲーム自体がかったりぃンだよなー」とか「
これ絶対ク○ゲーだよなー」とか、
 まぁそんな具合に
くだをまきながらダラダラしたプレースタイル
 なんともちょうど酔い…もとい、ちょうど良いのです。

 「マグナブラバン」のシナリオを味わうのに気合を入れる必要はありません。
 その物語展開に、特筆するほどの意外さは無いですし、
 夢中になるほどの面白さも無いと思います。
 だけど、
不思議な心地よさがあって、そして最後には満足できる素敵な内容なのです。

 「RPGは、シナリオが良ければク○ゲーでも許す!」という好事家の方にこそオススメの
珍品です。
 ぜひ一度、ご賞味あれ。





 
余談:本作の世界観において、酒は「ミド」という名称で呼ばれています。
    グラフィック的な表現(ジョッキに注いである)とかその飲み方なんかは完全にビールそのものですが、
    なぜか「ミド」という謎固有名詞なのです。

    ひとシゴト終えたときにカンパイして、グビグビと呑んで、呑むと顔が赤くなったりクラクラしたり、呑み過ぎると気分が悪くなったり…と
    「ミド」に見られる特徴は、明らかに酒そのものであるにも関わらず、
    「ミド=酒」だとは、作中では直接的に語られていません(マニュアルによると「お酒のようなもの」とのコト)。
    おそらくコレは、未成年である主人公が酒を呑むという表現が倫理的に問題であると判断され、
    それをすり抜けるための苦肉の策だったのだと思います。

    が、「ミド」という名称には、モデルとなった酒があることはあまり知られていません(倫理チェック側も知らなかったに違いない)。
    その酒の名は「ミード」。ハチミツを原料にして醸造された人類史最古の酒です。

    ミードの作り方は、人類史最古というだけあって単純。
    醸造メカニズムは「酵母菌がハチミツの糖分をエタノールに分解する」というシンプルなもの。
    ハチミツとドライイーストとミネラルウォーター(※)を買ってきて、てきとーにシェイク→数日間常温放置すれば、作れたりします。
          (※家庭の蛇口から出る水道水ヤ水道水だと、発酵の働きを妨げたり腐敗させてしまう可能性があるため)

     …あ、でも自家製ミードはしょせん原始的な醸造方法なだけに味の保証はできませんし、それ以前に酒の密造は法的に禁止されてます。
     よいこはマネしないでくださいねっ。








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