マーヴェラス〜もうひとつの宝島〜
ADV  96.10.26  任天堂


 



 【「ゼルダの伝説」の流れを継ぐ地味ゲー】
 
  「マーヴェラス」は任天堂がスーファミ晩期に送り出したアドベンチャーゲームである。
 任天堂製のアドベンチャーゲームといえば、
 多くの人は、ファミコンディスクシステム時代の名作の数々を思い浮かべることかと思います。
 スーファミでも「新・鬼ヶ島」は新作が発売されましたし、「ファミコン探偵倶楽部2」のリメイクもありましたね。
 「中山美穂のトキメキハイスクール」のことは・・・
まぁ忘れてください

  ところが「マーヴェラス」は、それらの「コマンド入力式タイプ」のゲームではありません。
 ましてや、スーファミ時代のアドベンチャーゲームを象徴する「サウンドノベル」でもありません。
 このゲームは、スーファミ版の「ゼルダの伝説」の謎解き要素を煮詰めたようなゲーム、
 つまり
アクション要素がほとんどない「ゼルダの伝説」
 と思っていただければ結構かと思います。

  本作が発売されたのは、96年の10月。
 ロクヨン発売直後という時期だけに
 「マーヴェラス」発売当時の注目度は非常に低いものでした。
 いくら任天堂製のゲームとは言えど、
 ゲームシステム自体が「ゼルダ」を踏襲していること、
 悪く言えば「焼き直しクサイ雰囲気」がプンプン、
 さらにグラフィックの質感がソックリなのも追い打ちをかけ、
 「そのうちプレーしたのでいいゲーム」という烙印を押されてしまったのです。
 また当時は、すでに次世代ゲーム機が主流でしたし、
 任天堂信者ならば、ソフトの種類は少ないながらもロクヨンの高品質ソフトに酔っていたはず(3D酔いも含め)。
 「マーヴェラス」は、そんな折に出現した
あまりにも地味すぎる存在なのでした。

  ・・・思い返せば、任天堂発売のスーファミソフトはどれも良質でありながら、
 本体と同時発売された「F−ZERO」「パイロットウィングス」と
 ポリゴンが話題になった「スターフォックス」「ワイルドトラックス」を除けば、
 続編あるいはシリーズキャラ物ばかりでございます
 (「糸井重里のバス釣りNo.1」も、
ある意味キャラもの)。
 例外では「パネルでポン」が挙げられますが、
 ご存知の通り、このゲームも発売当時にはまったく注目されなかった遅咲き作品であります。
 「マーヴェラス」と「パネルでポン」にある共通点、
 それは「良質なゲームでありながら、派出なビジュアルやイカス話題性などが皆無」ということです。
 しかしそれは、裏を返せば「知らなくてもオッケーだけど
 
触れてしまえば一目惚れ!」という証明だとも言えるでしょう。



 
【3人版「ゼルダの伝説」】

  「マーヴェラス」の主人公は、キャンプに参加した3人の少年たち。
 
チビのディオン君。デブのマックス君。ノッポのジャック君
 (以下「チビ」「デブ」「ノッポ」と呼ばせていただきます)。

 物語は、夏休みにクラスの仲間たちと無人島にキャンプにやってくるところから始まります。


  チビ、デブ、ノッポという安直な組み合わせの3人の名前は、完全に固定されているので変更はできませんが、
 ゲーム開始時に3人のチーム名をつけることができます。
 注目していただきたいのは、名前をつけられるのが3人の少年ではなく、
 少年たちのチーム名だということであります。
 そう、彼らは3人で1つのチームであり、そのチームこそが主人公なのであり、
 プレーヤーは彼らを適材適所でアクションさせることで、様々な謎を解いていくのです。

  操作方法は・・・けっこう
複雑です。
 一応説明しますと、
 A:決定 B:キャンセル、アイテム使用 Y:仲間を呼んで集団行動する X:アイテムメニューを開く
 L:体力ゲージを表示のオン・オフ R:操作するキャラを切り替える
 スタート:ポーズ セレクト:セーブ というようになっていて 
 すべてのボタンを使用しなければなりません。

  ところがどっこい、
そこはさすが任天堂
 お家芸ともいえるチュートリアルが「
これでもか!」と言わんばかりに徹底されており、
 ゲームを進めるうちに操作方法を学習できる仕組みになっております。
 おかげさまで、
説明書なんぞ必要ありません

  3人組がキャンプ場で最初にやらなけりゃいけないことは、
 お昼ゴハン用の
タキギを6本集めること
 タキギ集めのために無人島のあっちこっちを探検しながら、
 プレーヤーはこのゲームの基本操作を覚えることができます。
 同時に、その道中で手に入る
アイテムによって可能なアクションが増えていき、
 
行動範囲が広がっていくというワケです。
 ま、このへんは「ゼルダ」と同じですね。

  「マーヴェラス」が「ゼルダ」と異なる部分。
 それは、
操作できるキャラが3人であり、
 彼らの
得意分野がそれぞれ異なるという点であります。
 本作は「ゼルダ」同様に、アイテムを手に入れることによって新しいアクションを身につけていきます。
 序盤で手に入る「ダッシュシューズ」「サッカーシューズ」「ジャンプシューズ」という3種類の靴は、
 それぞれ「ダッシュ」「キック」「ジャンプ」というアクションが可能になりますが、
 これらのアイテムを使用できるのは
キャラクターによって限定されているので、
 
ダッシュ→チビ
 
キック→デブ
 
ジャンプ→ノッポというように
 可能なアクションが、
3人それぞれの得意分野となっていくワケです。

  たとえば、ガケがあって先に進めない場所に遭遇したとします。
 ここでは、ジャンプができる
ノッポしか先に進めません
 そこでプレーヤーがやらなければいけないのは、
 
ノッポを単独行動にしてガケの先に進めることになります
 高いところにあるアイテムを取るにはダッシュ→体当たりで落とす、
 これはチビの役目(この仕掛けは「ゼルダ」でもありましたね)。
 固くて動かないレバーがあれば、デブのキックでスイッチON。
 ・・・こういう感じで、3人それぞれのアクションを要所要所で使っていって
 ゲームを先に進めていくのでございます。



  
【夏休みに、少年だからできる大冒険】

  さて、タキギを6本集めたころ、
 3人組は無人島であるはずのキャンプ島で
大きな海賊船を発見してしまいます。
 この船は、伝説の大海賊
キャプテン・マーヴェリックの船で、
 さらにはキャンプ島には
マーヴェリックの秘宝が隠されていることが明らかになります。

  その秘宝を狙う海賊「パッチーズ」!
 パッチーズにさらわれる担任のジーナ先生!
 無謀にも、先生を助けに行く決心をする3人組!

  んでもって、ゲッターロボ、もとい3人組は
 何故か知らん
過去の世界に行ったり
 町を襲う
正体不明の怪奇植物と戦ったり
 どういう訳か
小人になってしまったりするのです。
 ハッキリ言って、その様は奇想天外!荒唐無稽!
 でも、いいんです。
夏休みの冒険ですから

  それを彩るのが、ちょっと暴走気味の文章。
 ゲームボーイ作品「カエルの為に鐘は鳴る」の暴走っぷりとまではいきませんが、
 そのノリは、
剣と盾に名前が書かれてある
 ゲームボーイ版「ゼルダの伝説〜夢をみる島〜」のノリと
 
かなり似ている部分がございます。
 池に落ちているサッカーシューズを手に入れた
ら、
 「
サッカーシューズを手に入れた!
よく乾かしてから使おう。」などと言われ、
 デブが飲み込んでしまったカギを(ムリヤリ吐かせて)手に入れたら、
 アイテムの名前が「
すっぱいカギ」でございます。
 えーえー、皆様のご期待通り
 やっぱり
埋蔵金ネタも登場します

  そんな道中を助けてくれるのが、任天堂製のスーパー親切設計。
 「マーヴェラス」の操作システムで
 ゲーム史上歴代No.1に輝くといって過言ではないほどの快適さを誇るのが、
 
怪しいところは即座に反応する「サーチシステム」でございます。
 ゲーム中にAボタンを押すとカーソルが出現し、
 調べるべくオブジェクトがあれば自動的に?マークが出現するのですが、
 このカーソルがスイスイ動くし、かなり広範囲に反応してくれるといった具合に
 とにかく
異常なまでの高性能っぷりなのです。
 「怪しいところに反応してくれる」といえば、
 ロクヨン版の「ゼルダ」に登場する「ナビィ」が有名でございますけども、
 本作の「サーチシステム」の快適さを一度知ってしまえば
 「ナビィ」の性能など
屁でもありません
 おかげで僕は、ロクヨン版「ゼルダ」を数時間で放棄するハメになったほどです
 (当時、攻略本まで貸してくれた後輩のナカヤマくん、ごめんなさい)。

  しかし、そんなものはまだまだ序の口。
 「マーヴェラス」の親切設計は、こんなものではありません。
 このゲームにおける最大の親切は
Yボタンにあります。

  Yボタンの役割は「画面内にいる仲間を一箇所に集めること」。
 このとき「ピピィーッ!!」と、集合!のホイッスルを吹くアクションが起こるのですが、
 同時にピラックという名のお助け鳥を呼ぶこともできるのです(序盤と最終章を除く)。
 で、この鳥に話しかければ、
 ゲーム中で手に入る「ラックロック」というアイテム(お金のような役割をしている)と引き換えに
 その場その場のヒントを与えて
くれるのですが、
 このとき得られる情報が、ヒントというよりも
むしろ答えでございまして、
 「○○に行ってみたらどう?」といった感じで
完璧すぎるアドバイスをしてくれるのです。
 すべてにおいて親切丁寧。
 おかげさまで攻略本なんぞ不要で、詰まることなくサクサクとゲームを進めることができるのでございます
 (個人的に詰まったのは、森の中で通れなさそうな所がじつは通れた、という部分だけ)。



 
【優しいゲーム】

  その場その場でキャラを切り替えつつ、
 数々のトラップを解除していく「マーヴェラス」のゲームシステムは、
 「バイキングの大迷惑」に多くの共通性が見られます
 (「マーヴェラス」の開発陣が「バイキング〜」の影響を受けたという噂もあるくらいです)。

  しかし「バイキング〜」をプレーしたことのある人ならば、
 誰もがきっと「
物足りないゲーム」という評価を下すと思います。
 事実、僕自身が本作に触れたのは「バイキング〜」の後でしたけども、
 そのとき感じたことは「ゲームそのもののボリュームはあるけど、何か物足りない」だったのです。

  しばらくして、その原因は
 
ゲーム難易度が恐ろしく低いことだと気がつきました。
 快適さをひらすら追及した、
高性能すぎるサーチシステム。
 ゲームに詰まることを極力解消すべく、
 ユーザーフレンドリーを通り越した
過剰なまでの救済措置の数々。
 調べなければいけないところに半自動的に反応するわ、
 わからないことがあれば、アッサリとヒントが貰える。
 そのせいで、ただひたすらにストーリーを駆け抜けていく感じだけが残り、
 プレー後の達成感というのがあまり感じられなかったのです。

  また、ゲーム中はほとんどと言っていいくらい、
3人で固まって行動するため、
 「バイキング〜」と比較すると各自の能力を生かして
個別行動するシーンは少ない
 いちおう最終章では、3人が別々に行動するシチュエーションはあるものの、
 ゲーム全体の視点で見れば、ほんの一部のことである
 (ちなみに最終章の攻略法を把握していれば、単独行動する必要すらありません)。
 ついでに言わしてもらいますと、
 「ゼルダ」のように、
ひとつのアイテムをいろんな使い方ができるというケースも少なく、
 可能アクションが増えるアイテムも序盤に集中しているため、
 アイテムの存在自体が、どうしても
薄っぺらく感じてしまうのです。

  僕が感じた「物足りなさ」の正体は、
 「バイキング〜」のようなパズル性もなく、
 「ゼルダ」のようなやり応えもない
ヌルさだったのです。


  さてさて、最近「バイキング〜」の攻略コーナーなんぞを作成してみた僕でございますが、
 それをキッカケに「マーヴェラス」を再びプレーしたくなったワケでございます。
 ・・・すみません。
前言撤回させてください
 改めてプレーしてみると本作に対する偏見が、思いっきり覆されたのです。

  えー、再プレーによって至った結論は、
 「マーヴェラス」は「バイキング」や「ゼルダ」とはシステムは似ているものの、
 
ゲーム性のベクトルがまったく異なっていることであります。 

  「バイキング〜」や「ゼルダ」の魅力は、
 平気で1〜2時間は先に進めず、胃腸がよじれるような思いをしながらウンウンと頭を抱え、
 ある瞬間に悟りを開いたかのようにアッサリと先に進めるという
快感であります。
 が、「マーヴェラス」の場合はそうではなく、
 その場その場でサクサクと仕掛けを突破していき、
 同時に
ストーリーを楽しむゲーム性が魅力なのです。
 例えるならば、
 「ゼルダ」は数学の問5みたいな感じだとすれば、
 「マーヴェラス」は算数ドリルをガンガンやっつける感じですか(どんな例えだ)。
 たしかに本作は、「ゼルダ」と「バイキング〜」の系譜上に存在する作品である。
 だからと言って同じ物差しで計ろうとするのは、
根本的に間違いだったのです。

  たとえば、「ゼルダ」の「1種類のアイテムに様々な使い道がある」というのは、
 「ゼルダ」がアクション性の強いゲームだというのが大きな要因となっています。
 冷静に考えてみれば、「ゼルダ」に登場するアイテムの多くは、
 「武器として使える=様々な使い道がある」というイメージを持っていたにすぎないのです
 (それはそれで、かなりスゴイことですけど)。
 同様に「バイキング」の場合は、ステージクリア制のアクションゲームであるので、
 「そのステージ最初のトラップの解除方法を間違えてたが故に
 ゴール直前で最初からやりなおし」なんてこともありますが、
 「マーヴェラス」のトラップには、そんな
極悪な仕掛けは存在しません。
 アクション性の有無が、単にゲームに対する満足度を左右していただけなのです(暴言)。

  「ゼルダ」「バイキング〜」がじっくり型のゲーム性なのに対して、
 「マーヴェラス」は
お手軽なのである。
 そして、それがウリなのです
 (「マーヴェラス」のパズル性に物足りない人は是非「バイキング」をプレーしてください)。
 イコールそれは「誰でもクリアできる設計」と言えますけども、
 裏を返せば「
このゲームに触れた人みんなにクリアして欲しい
 という意味も含んでいるのであります。

  その証拠、「マーヴェラス」をノーヒントでプレーすると、
 
じつはけっこう難しかったりします
 ただ、
ヒントがいつでも手元にあるから難易度が低くなっているだけなのです。

  答えは常に手元にあります。
 だけど、それをいつ使うのかはプレーヤーの自由なのです。
 ひたすらノーヒントで進むのもいいし、迷ったときにだけ使うのもいい。
 すべては本作を満喫するために、プレーヤーに与えられた
自由度なのです。

  だからこそ「マーヴェラス」は、じっくりとプレーしてみて欲しい作品だと思います。
 本作をクリアすることだけを目的とするならば、誰だってできることです。
 このゲームに触れる機会があるならば、
 じっくりばっくりのんびりとエンディングを目指してほしいと思います。

  そうすれば、任天堂のゲームに対する優しい想いを間違いなく感じ取ることができるはずでしょうから。



  余談:僕が「マーヴェラス」に触れたのは、もう何年も前のことです。
     このゲームを「隠れた名作」として絶賛する人は多いと思いますけども、
     これまで僕が、本作に対して否定的な評価を下していたのには、
     
映画「スタンドバイミー」が嫌いということに集約されると反省しています。
     ごめんなさい。ゲームに罪はありません。