エルナード
RPG  93.4.23  エニックス


 



  アーク三部作

  エニックスと言えば「ドラクエ」である。
 エニックスは「ドラクエ」以外のゲームも秀作揃いで、
 「アクトレイザー」「ソウルブレイダー」「天地創造」などは、
 「天界三部作」という名で現在でも(一部のゲーマーの間で)語り継がれております


  では、同じくエニックスのゲームで、
 「
アーク三部作」なるものが存在することをご存知でしょうか?
 この三部作の中で有名なのは「ミスティックアーク」。
 スーファミが最も輝いていた95年に発売され、
 幻想的な世界観を表現したスーファミ最高クラスの超美麗グラフィックと、
 
超古典的なゲームシステムとのギャップが賛否両論の嵐を呼んだ迷作でございます。

  この「ミスティックアーク」、じつは「アーク三部作」の
二作目だったりします。
 じゃあ「アーク三部作」の一作目が何かといいますと、
 「
エルナード」という地味なRPGなのでございます
 (ちなみに三作目は、「ミスティックアーク〜まぼろし劇場〜」。僕自身は未プレーなのでノーコメント)。

  「
エルナード」は「ミスティックアーク」の前作にあたるというだけあって、
 
共通するゲームシステムや、
 物語上の繋がりはないものの
同じキャラが登場してたりするので、
 「ミスティックアーク」をプレー済みの人なら、
地味に感動できることでしょう。





  【7人の思惑が交錯する!〜壮大なおつかい物語〜

  「エルナード」の主人公は、偉大なる賢者シーダ様の
7人の弟子たちです。
 彼ら7人のの目的は、世界中に散らばる
「7つのアーク」を集めること
 「アーク」とは「この世界になんらかの形で存在する様々なチカラ」のことであり、
 それをすべて集めた者が、世界を統治するに相応しい賢者になれる、らしいです。
 つーことで、プレーヤーは
7人の弟子の中から1人を選び
 アークを探すための冒険の旅に出発するのでございます。

  では、
残りの6人の弟子たちはどうなるのでしょうか?
 自分と同じく「アークを集める」目的の彼らとは、
旅の途中で出会うことになります。
 が、本作のポイントは、
 
弟子同士は必ずしも友好だとは限らないことであります。
 つまり、
仲間としてアーク探しに協力してくれる奴がいれば、
 
敵として対立してしまう奴もいるってことなのです。


  ある者は、自分の欠如した能力を補うべく
仲間を探そうとする
 またある者は、
ひたすら独りでアーク探しを続ける。
 
ライバルを蹴落とすために殺し屋を雇う者もいれば、
 他の弟子から
アークを横取りしようと考えてる奴もいる!
 ライバルの方が
先にアークを手に入れてしまってることもあれば、
 アークをめぐって
殺し合いに発展することもある!
 そんな中でも、たった1つのアークの持つチカラにすっかり魅了され、
 
旅を放棄してしまう弟子もいたりする!
 どうですか!奥様!!
 「エルナード」に描かれているのは、
 そんなグログロとした人間模様(
人間以外も含まれていますが)が渦巻く
 まさに
血沸き肉躍るバトルロワイアルっぷりなのでございます!!

  ・・・などと書けば、「エルナード」の物語は非常に面白そうです。
 が、
面白いのは、あくまで本作のあらすじであって、
 間違っても
ゲーム中での物語展開ではありません
 えーえー、
あらすじだけの方が100倍くらい面白いです
 「アルツハイマー病の妻を殺した警察官は失踪していた!空白の数日間に何があったのか!?
 →
じつはラーメン食いに行ってただけ」というのと似ております。

  「エルナード」の物語展開が激しくつまらン理由。
 それは、ストーリーの9割以上
(=あらすじ以外の部分)が
 
おつかいイベントで構成されているからに他なりません。
  
〜を見つけてくれ
  
〜へ行ってくれ
  
〜を倒してくれ
  
〜の手伝いをしてくれ
  
〜を助けてくれ
 ・・・これが「エルナード」の
壮大な物語の主成分なのであります。
 まぁ、「アークを集める」という
ゲームの目的からしておつかいなのが、
 
最大のツッコミどころのような気がしないでもないですが、
 そんな
おつかい至上主義は、
 続編「ミスティックアーク」にも受け継がれておりますので
ツッコミ入れるだけ無駄です。


  本作は7人の主人公を選ぶことができます。
 が、注意していただきたいのは、
 
誰を選んでもストーリーは同じということ
 ゲーム自体は完全な1本道に沿った展開で
 (中盤では一時的にフリーシナリオになる。
やっぱおつかいですけど)、
 弟子たちが絡んでくるイベントも、選んだ主人公によって
キャラが入れ替わるだけ
 
ハリボテ式な単純仕様なのでございます。
 また、それらのイベントでも劇的な演出があるわけではなく、
 
メッセージのみで書かれる淡々とした仕上がりとなっており、
 感情移入するなど、まず不可能です。
 ・・・まぁ、昔のゲームですし、そのへんは寛容な気持ちや
 
必要以上の想像力でフォローするのが吉かと思われます。





  【プレーヤーが戦いの流れを変える

  演出面において、全体的に
地味な雰囲気の漂う「エルナード」ですが、
 
たったひとつだけ他に類を見ないイカス演出がございます。

  それは、フィールドで敵に遭遇して
戦闘シーンに移り変わる瞬間
 敵と遭遇すると、
フィールドマップが回転ズームアップしながら
 
3D視点に切り替わり、そのまま戦闘がはじまるのです。
 回転・拡大縮小が使えるスーファミでは、戦闘シーンに切り替わるときに
 それらの機能を使うゲームは星の数ほど存在しますが、
 フィールドマップそのものを戦闘フィールドにするゲームは他に存在しません
 (ただし、「ウルティマ6」などのタクティカルコンバット制のものや、3Dダンジョンのゲームは除く)。
 まさしく、スーファミ機能を活用したナイスな演出と言えるでしょう。

  そして、肝心の戦闘システムのほうも
 一見オーソドックスなスタイルに見えるものの、画期的な試みが多く盛り込まれています。

  まず、序盤での戦いのカギを握っている「
ガードアタック」。
 「ガードアタック」とは、ガードしてから攻撃する
そのまんまの戦い方ですが、
 本作は、
ガードしてから攻撃することによって
 
攻撃力が大幅にアップするシステムになっております。
 このゲーム、序盤から敵キャラが強めに設定されていているので、
 ザコキャラ1匹相手の戦闘でも苦労します(攻撃型キャラでない場合はなおさら)。
 そこでこのガードアタックが有効になってくるのです。
 ゲームバランスが悪いわけではありません。

  が、ガードアタックは万能ではありません。
 本作に登場する敵は、
アホみたいに回避率が高い奴らが多く
 全ザコキャラのうち半分は「
2回に1回は避けてンじゃねぇの?」と
 
本気で思えるくらい攻撃が当たりません
 ガードする→攻撃する→
でも避けられる、というのが日常茶飯事。
 
ガードアタックを3回連続で避けられるということも多々あり、
 コントローラー投げつけたろかと心底思えます(
攻撃魔法まで回避します)。
 したがって、
カタイ敵にはガードアタック
 
回避率の高い敵には通常攻撃すると使いこなさなければならないのです。
 ゲームバランスが悪いわけではありません。決してッ!!


  「エルナード」の戦闘には、
 他にも「
キャラの行動順序を入れ替える」システムが採用されています。
 本作は
最大パーティ人数が2人と少なめになっていますが、
 この「行動順序の入れ替え」が意外な戦略性を生み出しています。
 戦闘中は、1ターンの間に敵・味方ともに1回ずつ行動できるのですが、
 味方がコマンド入力するときに
行動順序を入れ替えることが可能なのです。


  ・・・わかりにくいので、実際に例を挙げてみることにします。

  たとえば、
戦士魔法使いというパーティが、敵A敵Bの2匹と遭遇し、
 それぞれの行動順序が、
 
1.戦士 → 2.敵A → 3.魔法使い → 4.敵B だとします。

  この戦闘で「
魔法使いが戦士の攻撃力をUPさせて戦う」作戦でいくのなら、
 
1.戦士攻撃) → 2.敵A → 3.魔法使い戦士の攻撃力UP) → 4.敵B 
 という行動順序よりも、戦士・魔法使いの行動順序を入れ替えて、

 
1.魔法使い(戦士の攻撃力UP) → 2.敵A → 3.戦士(攻撃) → 4.敵B 
 と行動したほうが効率が良いのがわかっていただけますでしょうか?


  このシステムを利用すれば、
ターンをまたいで2回連続攻撃も可能で、
 プレーヤーの意思で
戦闘の流れを変えることもできる画期的なシステムなのであります。
 また、
敵の攻撃の標的になるのは最後に行動したキャラなので、
 
防御力の高い仲間をわざと後で攻撃させて盾にする」なんて芸当もできます。
 このシステムは「ミスティックアーク」にも受け継がれておりますが、
 「ミスティック〜」が3人パーティなのに対して、「エルナード」が2人パーティのぶん、
 作戦が立てやすく戦闘の流れもコントロールしやすくてナイスです。


  では、これらのシステムがうまくゲーム性に反映されてるかどうかと問われれば、
 
そうでもなかったりするのが(かなり)痛いところだったりします。
 せっかく戦略性のある戦闘システムを、

 アーク
という存在がすべてをブチ壊しているのです。

  物語を進めるにつれて手に入るアークは、
 戦闘中に使うことによって
様々な効果を発揮します
 しかし困ったことに、この
アークの効果が強力すぎるので力押しな戦闘になってしまうワケです。
 えーえー、
HP回復してくれます。
 
攻撃力や防御力のUPもなんのその。
 果ては
MPまで回復してくれます
 しかも
アークは何度使っても無くなることはないので、
 ゲームを先に進めて新たなアークをゲットするたびに
戦闘がラクになっていくのです。
 本作では、基本的に敵が強めに設定されているものの、
 それ以上に
アークの力が強大すぎて、ゲームバランスそのものが崩壊、
 ゲームを進めるほどに、せっかくの戦闘が
単調な作業になってしまうのです。


  トドメにプレーヤーを襲うのが、
ゲーム中に流れる音楽
 「エルナード」の音楽は、地味ながらもとても良いです。
 聴いていて、すごく安らぐ音楽なのですが、
 この音楽が
あまりに心地が良すぎて激烈な眠気を誘ってくるのです。

  退屈なおつかいイベント、単調で作業的な戦闘シーン、
 そして、アルファ波出まくりの音楽が生み出す相乗効果(
睡魔)こそ、
 ある意味、「エルナード」最大の敵であると言っても
間違いではありません


  ・・・ひとつフォローしておきますと、「エルナード」は戦闘はかなりサクサク進みます。
 戦闘シーンのテンポの良さは、じつは続編「ミスティック〜」よりも上だったりします。
 もっとも運が悪いと、ひたすら攻撃が当たらないため、
 
無意味に戦闘が長くなるという不安定バランスではありますが。





  【ゲームバランスが紡ぐ物語

  多くのプレーヤーが、ゲーム中でもっとも
苦痛を味わうことになるのは、
 おそらくは
サイコーに退屈な中盤のフリーシナリオだと思われます。
 おつかいの嵐なのは当然として、
 たどりつく町や城では、売られている武器防具もほとんど同じ、
 敵の強さも中盤エリアではほとんど同じという単調なゲーム展開には
 誰もが
無間地獄にも似た錯覚に陥ることでしょう。
 そして誰もが「ヌルゲーじゃねぇの?」と感じることだと思います(
実際にヌルイ)。
 ・・・が、じつはそこにこそ、「エルナード」に仕掛けられた
最大のトリックが存在しているのです。


  「エルナード」の物語のカギを握っている
アークという存在は、
 オープニングで「この世界に存在する何らかの形をしたチカラ」と語られるものの、
 実際は戦闘を有利にする
=戦闘バランスをブチ壊すものでしかありません。

  そもそも「アーク」とは何なのか?
 終盤に突入する頃、すべてのアークを集めた主人公は、
 アークの正体を知ることになるのと同時に
すべてのアークを失ってしまいます
 直後、これまでのヌルヌルなゲームバランス
180度ひっくり返り、イッキに極悪化
 (リアルタイムでプレーしてた友人Y氏は、これが原因で挫折。
 本作を「ゲームバランスの悪いク○ゲー」と認定しました)。
 じつは、
ここからが「エルナード」の本番なのです!

  物語終盤は、多少イベントがあるものの(やっぱ最後までおつかいですが)
 
プレー時間の大半は戦闘に費やすことになります
 これまでテキトーにこなしてきた戦闘も、
 
アークを失ったが為に、コマンドミスひとつで全滅というシビアな戦いに発展。
 プレーヤーに求められるのは、
これまで培ってきた戦略性
 つまり、本作の戦闘システムは
 
終盤のゲームバランスによって初めて生かされてくるのです。
 同時に、僕たちは思い知らされます。
 今まで利用してきた
アークが、いかに偉大な存在だったかをッ!!

  そう、「アーク」のチカラは
極悪化したゲームバランスによって表現され、
 かつラスボスとの戦いまでのストーリーは、
 
プレーヤー自身の苦難として見事に描かれているのです。
 なんという大胆な設計!!
 誰だ、こんなゲームにGOサインを出した人間はッ!!
 (エンディングのスタッフロールで明らかになりますが、
 本作のプロデューサーは、あの千田「ゆきのふ」氏でございます)

  これが計算されたゲームバランスなのかどうかは、本当のところは
わかりません
 が、そこには間違いなく、
ゲームバランスが語るストーリーが存在しているのです
 (再び手に入れることになる「アーク」は、
 よりによって
ラスボス戦でのみチカラが解放されることになりますし)。


  「エルナード」は、決して名作ではありません。
 中盤のダルさや終盤のキツさが原因で、
ク○ゲー扱いされても仕方がないとも思います。
 トータルで見れば、続編「ミスティックアーク」の方がシステム的にも洗練されていて、高い完成度も誇っています。
 ですが、「エルナード」はゲーム的に荒削りながらも、
 いわば、ダイヤの原石のような輝きを持つ作品であり、
 本作の「ゲームバランスが紡ぐ物語」という巧妙な仕掛けをぜひ味わって欲しいと、心底思う次第なのでございます。



  余談:「エルナード」からはじまる「アーク三部作」を製作したのは、
    「プロデュース」というソフトハウスで、「パカパカパッション」シリーズが有名でございます。
    現在では既に解散してしまったそうですけども、
    晩期には、一世を風靡したバカアニメ(←誉め言葉)
    
「KAIKANフレーズ」のゲーム化に貢献したという偉業を成し遂げたそうです。
    合掌。