アウターワールド
ACT  92.11.27  ビクター音楽産業株式会社


 



  【スーファミ初のポリゴンゲーム

  スーパーファミコンでのポリゴンゲームと言えば、誰もが想像するゲームがある。
 それは93年に任天堂から発売された「スターフォックス」である。
 ポリゴンを動かすのには非力なスーファミのスペックを補うべく、
 「スーパーFXチップ」なる演算処理チップを
 わざわざソフト内部に組み込んだという、いわくつきのソフトである。

  だが、それを遡ること3ヶ月前に、
 
スーファミ初のポリゴンゲーが発売されていたことは、
 あまり知られていない。
 そのソフトの名は「
アウターワールド」。
 本作は、当時最先端技術だった
ポリゴンでグラフィック描画された
 横スクロールタイプのアクションゲームであります。


  本作の箱には、こんな煽り文句が書かれております。

   「今話題のポリゴン技術を大幅に採用したアドベンチャー・アクション・ゲーム。
   滑らかなスクロール、クローズアップ、切り替えし、ズームイン
   などといった映画的な手法と、一歩先に仕掛けられた謎の数々。
   今までにない新鮮な驚きをプレイする者に与えます。」


  この文章に、
嘘偽りはございません
 まずド肝を抜かれるのが、
フルポリゴンによるオープニングデモ
 このデモ、スーファミとは未だに信じられないくらい
 
非常に完成度が高いのです(しかも、そのデモ時間は3分もある!)。
 内容を紹介しますと、こんな感じです。


  怪しげな駐車場に、1台のクルマ(フェラーリらしい)がやってくる。
 クルマから降りる主人公。
 どうやら、そこは何かの研究所。
 エレベーターに入り、研究所の保安装置のチェックが行われる。
 研究所内のコンピュータを立ち上げ、パスワードを入力する。
 主人公こと、レスター=ナイトチェイキン教授(学生にしか見えません)は、
 なんともよくわからん実験の数値をコンピュータに打ち込んでいく。
 コンピュータが、よくわからん計算をしている間に、
 彼はコーラの缶を空け、男らしくグイっと一杯。
 そのとき、稲妻が研究所を直撃!
 レスター教授は、稲妻に包み込まれると共に消滅してしまったのでした・・・。
                                   〜完〜


  以上が「アウターワールド」のオープニングであり、
 物語のプロローグであります。
 そんなこんなで、主人公ことレスター教授は
 
なぜか異世界にワープしてしまい
 元の世界に戻る手段を探すべく、血沸き肉躍る冒険を繰り広げるハメになるのです。





  【あっという間にゲームオーバーになってしまいます

  本作は、
アメゲーである。
 アメゲーといえば、不親切でバタ臭い。
 難易度が高くて、クラッシャー。
 理不尽かつ極悪非道でマッチョマン。
 大味でとっつきが悪くて、んでもってリメンバーパールハーバー。
 たいていの人は、アメゲーに対してそんな
偏見を持っています。
 でも皆様、ご安心下さい。
 「アウターワールド」はそんなアメゲー的要素に
 
すべてストライクしておりますから

  今のうちに断っておきますが、本作は
不親切なゲームです
 最先端のポリゴングラフィックつっても、
ベタ塗りなグラフィックで、バタ臭さ全開ッ!
 難易度高いですよ!やたらと
クラッシャー描写も多いですよ!
 
理不尽な仕掛けは朝飯前で、
 怒りを通り越して、呆れてしまうほどの
極道一直線なゲームバランス
 主人公以外の登場人物は、
すべてマッチョです(女性もマッチョだ)!!
 当たり判定なんかもいいかげんで、
処理落ちしまくりで操作性もよろしくない!
 
  ・・・こんな
最悪なゲームのどこがいいのか疑問に感じる方もいらっしゃると思います。
 つーことで、論より証拠。
 「アウターワールド」のゲーム開始部分をリプレイ形式で御解説することにしましょう!



  ゲームを開始すると、ポリゴンで描かれた世界が、僕らの眼前に広がります。
 おそらくこれは、水の中。
 しばらくの静寂の後、「ドゥモォゥッ!!」という効果音とともに画面に閃光が走り、
 画面中央に机らしき物体が現れます。
 机は水の底に沈んでいき、レスター教授が登場。
 すると画面下の方から触手がウニウニとやってくる。
 レスター教授は触手に足を取られ、海底(?)に引きずり込まれていく・・・。
 そして画面には
  PRESS ”B” TO CONTINUE
  ACCESS CODE:LDKD 
 と表示される。

  つまり、Bボタンを押すことで、
 次のシーンに行くということなんだと思って、Bボタンをプッシュ。
 ポリゴンで描かれた世界が、僕らの眼前に広がります。
 おそらくこれは、水の中。
 しばらくの静寂の後、「ドゥモォゥッ!!」という効果音とともに画面に閃光が走り、
 画面中央に机らしき物体が現れます。
 机は水の底に沈んでいき、レスター教授が登場。
 すると画面下の方から触手がウニウニとやってくる。
 レスター教授は触手に足を取られ、海底(?)に引きずり込まれていく・・・。
 そして画面には
  PRESS ”B” TO CONTINUE
  ACCESS CODE:LDKD
 と表示される。
 ・・・もしかして、これって
 
ゲームオーバーになっているだけなんですか?

  ・・・そんな不安を抱きつつ、
 とりあえず、もう1回Bボタンを押す。
 
やっぱりポリゴンで描かれた世界が、僕らの眼前に広がります。
 「ドゥモォゥッ!!」という効果音とともに画面に閃光が走り、
 画面中央に机らしき物体と、レスター教授が登場。
 画面下からは触手がウニウニとやってきて、レスター教授を引きずり込む。
 で、画面には
  PRESS ”B” TO CONTINUE
  ACCESS CODE:LDKD 
 と表示される。
 ・・・どうやらホントのホントに
 
ゲームオーバーになっているだけということにやっとこさ気づく。

  つーことで、今度は主人公が登場したら、
 触手から逃げるべく、上キーを入力する。
 おーおー、主人公が上に向いて泳いでいってます。
 つまり、水中にワープしてきた主人公がいちばん最初にやらなきゃいけないことは、
 水中から脱出することなンだなぁと、
このとき初めて理解する
 バタ足で水面に向かって泳ぐ主人公(ポリゴン)。
 が、
それでも触手に足をつかまれ、海底に引きずり込まれました。
 で、ゲームオーバー。
 
その間、約7秒


  ・・・以上、「アウターワールド」のゲーム開始の瞬間でございました。

  ちなみに説明書には、ゲーム序盤のヒントが書かれており、
 いちばん最初のシーンはこのように解説されております。
 「水の中からゲームは始まります。
 まず最初にすることは、十字キーの上を押して水面に浮上することです。
 素早く浮上しないと水底に棲む生き物に捕まって、
 
あっという間にゲームオーバーになってしまいます。」
 ・・・そうですね



  以下、序盤の死に様でございます。
 ・水から上がってきてボーっとしてたら、
  水中から触手が追っかけてきて、
やっぱり引きずり込まれる。
 ・右に進むと現れるヒルに触れる。
  すると、突然アップの
ビジュアルシーン(ポリゴン)になり、
  ヒルはレスター教授の膝にサクッと攻撃!
  「このビジュアルシーンの後、どんな展開が待っているのかッ!?」と思ったら、
  
そのままゲームオーバー
 ・ヒルを蹴散らすと、今度は野獣が現れる。またまたビジュアルシーン(ポリゴン)になり、
  野獣は「グゴォォォォォゥ!」と唸り声をあげる!
  ビジュアルシーンはその直後に終了。野獣はレスター教授に襲いかかる!
  そして、再びビジュアルシーン(ポリゴン)。
  野獣のツメが、画面を横に切り裂いていくッ!
  「このビジュアルシーンの後、どんな展開が待っているのかッ!?」と思ったら、
  
そのままゲームオーバー
 ・野獣と戦おうとする→襲われてゲームオーバー。
 ・野獣から逃げようとする→追いつかれてゲームオーバー。
 ・野獣の出現と同時に逃げる→崖っぷちに追い詰められてゲームオーバー。

  ・・・とまぁ、
しょっぱなから死にまくりでテンション高いですが、
 とりあえず野獣から逃げ切ることができれば、最初のシーンはクリアとなります。
 ちなみに、この「最初のシーン」をクリアするのには、
 平気で
30分はかかります(※1)。
 その理由は、このゲームが全編通して
ノーヒントだから
 「水面から浮上する方法」、「ヒルとの戦い方」、「野獣から逃げる手段」、
 これらすべてを探し出すために、
何度も死なければならないのです。

 (※1:攻略法がわかっていれば
2〜3分でクリアできます





  【1000回死ねるアクションゲーム

  その後も極悪非道な難易度は続きます。
 いや、正確には
どんどんとエスカレートしていきます。
 異世界の住人に捕らえられてしまったレスター教授は、
 元の世界に戻るために逃亡するのですが、いきなり
射殺されゲームオーバー。
 苦労して手に入れた銃(
※2)で応戦するものの、撃ち負けてゲームオーバー。
 銃を撃ちまくっていると、
いきなり弾切れになって殺されてゲームオーバー。
 
画面が切りかわった瞬間に銃撃にあってゲームオーバー。
 ・・・こんなのばっかりです。

  (※2 異世界の住人と戦うために必要な銃をゲットするのに苦労する理由は、
   じつは
足元に落ちているにも関わらず、
  
米粒なみにしか表示されていないため


  ちなみに、このゲームには「ライフゲージ」などという
軟派なものは存在するはずもなく、
 とにかく死ぬときゃ
一発死
 殴られりゃ死ぬし、撃たれりゃ死ぬ。
 したがって、極悪トラップ(穴に落ちたら針山、など)なんて
屁でもありません
 むしろ、常に死と隣り合わせでという危機感が、
 異世界に放り込まれた教授とのシンクロ率UPに貢献しています。
 一撃で殺されるなんて卑怯かと思うかもしれないけど、
 
敵さんにもライフの概念がないので恨みっこナシさ(?)!
 こっちが銃を撃てば、敵さんだって
瞬時に黒コゲ
 もう一発撃ったら、
粉々に破壊だってできるんだよ!
 
すごいね!!


  ・・・話が大きく脱線しましたけども、
 「アウターワールド」のゲームとしてのウリとは、何なのでしょうか?
 それは、骨太なまでに硬派な(
理不尽な)難易度を突破したときの達成感である!
 本作は、全体的に見ればアクション性よりもアドベンチャーゲームとしての色が濃く、
 ゲームに詰まる場合というのは、
 大抵は「
どうやっていいかわからない」ケースであります。
 が、前述したとおり、このゲームは
ノーヒントなので
 ゲームを先に進むためには、とにかく
死ななければならない
 死んで死んで死にまくって、ようやく先に進めるための手がかりを見つけて、
 それでもやっぱり死にまくった挙句、やっとこさ先に進めるのです(
しかも、ちょっとだけ)。
 数時間、いや数日詰まることなど
当たり前
 そのぶん、やっとこさ先に進めたときの快感は、
 言葉に言い表すことができないほど
サイコーにキモチイイのです。
 そう、「アウターワールド」は、正真正銘の
マゾゲーなンですね。

  だけど、そのマゾっぷりは半端でなく、
 高難易度を通り越した
嫌がらせと言っても過言ではありません。
 「死にまくることを前提としたゲームバランス」からは、
 「
クリアさせないよ(はぁと)」という製作者の意図や、
 その性癖(
=サディズム)を感じ取ることができるでしょう。
 つーか、攻略情報ナシでは
絶対にクリアできねぇ
 このゲームを自力でクリアした人は、間違いなく
変態です。

  僕の場合、攻略サイトを見ながらプレーでなんとかクリアできましたが、
 それでもかなりの根性を必要としました。
 えーえー、プレーしてるとタバコの消費量が激増しましたとも。
 断言しましょう。
 「アウターワールド」は、「1000回遊べるRPG」ならぬ、
 「
1000回死ねるアクションゲーム」なのであります!!

  ・・・
誉め言葉になってません





  劇物指定

  プレステ以降のポリゴンゲーを批判するとき、
 「ビジュアルご褒美主義」という表現がよく使われます。
 プレーヤーがゲームを先に進めるためのモチベーションを維持するために、
 報酬としてビジュアルシーンを多用する、と。

  「アウターワールド」もまた然り。
 激烈難易度を乗り越えたいと思う気持ちは、
 ビジュアルシーンに支えられてる部分が大きいと、僕も思います。
 もっとも、本作におけるご褒美ビジュアルは、
 主人公こと教授の
死にっぷりなんですけども
 あのねぇ、「アウターワールド」における死に様は
 フツーの日本人なら思いつかないくらい
異常に凝っています

  前述した最初のシーンだけでも、
 最初に出てくる
ヒルに触れただけで
 わざわざビジュアルシーンになり、ピュッと毒を吐きながら牙を剥く
 →教授の膝をサクッと攻撃(数センチのカスリ傷)→教授立ち痙攣→前のめりに倒れる→死亡
 ・・・という具合に、最初のザコ敵にやられて死ぬにしても、
 
必要以上に気合の入った演出が拝めます
 そして、僕はこの「死にっぷり」を見て、
 
「アウターワールド」に一目惚れをしたのであります!

  つーことで、僕が愛した死にっぷりの一部をご紹介。 
  ・敵に撃たれりゃ一瞬で黒コゲ。で、死亡
   (場合によっては
頭蓋骨が転がり落ちます)。
  ・毒ガスに当たると仰向けで両手を広げてブッ倒れる。で、死亡。
  ・針山に落ちたら「
ンゲギャボッッ!」という雄叫びをあげ、ぐったり。で、死亡。
  ・岩に潰されりゃ「
ンギョッッ!」と断末魔の声を発する。で、死亡。
  ・ミョーな生物に触れてしまったら、奴の口がアップになって
   (
ヨダレが糸引いてます)、そのままパックリ。で、死亡。
  ・濁流に飲み込まれたら、
   
目ェ剥いてガボガボと苦しんでるムービーが挿入。で、死亡。
  ・敵に捕まったら、首つかまれてネックハンギング。悶絶する教授!で、死亡。
   (ただし、このシーンでは
金的キックで抵抗できます)。
  ・敵にマウントポジション喰らったら、そのまま延々とタコ殴りにされる。で、死亡。
  ・穴に飛び込んだら、ヒューンと落下。
   画面が切り替わり、そのままヒューン。また画面が切り替わり、またまたヒューン。
   次に画面が切り替わると、地面が見える!
   「着地でもするのか!?」と思いきや、「
グチャッ!」と地面に叩きつけられる。で、死亡。
   
  ・・・どいつもこいつも、
製作者のこだわりが溢れています



  本来、「ゲームオーバー」というものは
 プレーヤーにとっては「
失敗」を意味します。
 だがしかし、本作の「
死にまくることを前提としたゲームバランス」は
 
ゲームオーバーそのものをご褒美にすることで
 プレーヤーへのアメとムチを実現しているのです。
 なんという逆転の発想!!
 コペルニクスもビックリですわよ!!
 製作者は、
バカに違いない

  極悪なゲームバランスを乗り越えてさせるために、
 ご褒美グラフィック
をチラつかせる・・・。
 これが「アウターワールド」の図式でありますけども、
 これって何かに似ていると思いませんか?

  理不尽な極まりない難易度にも関わらず、
 ただただ「その先を見てみたい」が為に一心不乱にチャレンジしまくる。
 そう、「アウターワールド」は
 
「脱衣麻雀」と同じ構造をしているのです!
 もっとも、そのご褒美が、
 
ギャルの裸体ではなく死にっぷりなところが
 
若干異なりますけども


  少なくとも本作は、一般人に薦められる作品ではありません。
 本来ならば、ゲームという存在は「嗜好品」であるはずですが、
 本作の場合は、プレーした者にトラウマを与える「
毒物」の域にまで達している、
 いや、むしろ
一部の者(=好事家)を虜にしてしまう
 「
劇物」であると言って間違いないでしょう。
 そんなゲームなのです。

  したがって、
本作に触れてみる価値はあります
 スーファミ性能で描かれたポリゴングラフィックス、
 8×8ドットの制約を超えた演出、
 日本人の常識を逸脱したゲームバランス、
 どれもが僕らに衝撃を与えてくれることでしょう。
 もっとも、必死になってクリアするほどの価値があるかどうかと問われれば、
 胸を張って「
ありません」と豪語できるあたりがナニですが。


  ちなみにこのゲーム、攻略法さえ完全に把握していれば、
 
1時間もかからずに
 クリアできてしまいます




  余談その1:このゲームを本場アメリカで発売したのは、
    このサイトですでに紹介しております
    「バイキングの大迷惑」や「ロックンロールレーシング」などのバカゲーをプロデュースした
    インタープレイ社であります。

  余談その2:こんな「アウターワールド」というイカレポンチなゲームに興味を持った方は、
     Googleで「アウターワールド」を検索してみてください。
     イチバン最初にブチ当たるサイトが、
     このゲームのすべてを紹介してくれるはずです。