テコンドー
ACT  94.6.28  ヒューマン


 



  本作は、韓国の国技テコンドー」を扱ったゲームである。
 テコンドーの使い手がゲームに登場することはよくあるが、
 本作は、競技としての「テコンドー」をゲーム化した唯一の作品である。

  ゲーム中のルールは、実際の競技が下敷きになっているが、
 格闘競技なので、見た目は格闘ゲームそのものでありわかりやすい。
 操作方法も格闘ゲームに準拠しており、
 十字キーで左右に移動、連続入力することで前後にダッシュ、
 上を入力することでジャンプ、相手と反対方向にキーを入れることでガード、とお馴染みのものだ。
 他には「餓狼伝説」シリーズのような「ライン」の概念があり、
 手前・中央・奥とライン移動できる3ラインシステムが採用されており、
 隣のラインに攻撃するための回転技の方向を入れ替えるために
 左右の足を「スイッチ」させるシステムもある。


  これだけだと、時代を先取りした格闘ゲームを思わせるが、
 「テコンドー」は
あくまでスポーツゲームである。
 普通の格闘ゲームとして捕えると、エライ目にあう。
 なにせ格闘ゲームに必要な要素が
ことごとく無いからだ。

  ざっと無いものを挙げてみると、
 ・「しゃがみ」→テコンドーは、下半身を攻撃すると反則ですので、下段攻撃がありません。
 ・「投げ」→テコンドーは、打撃格闘技なので投げ技はありません。
 ・「体力ゲージ」→テコンドーは、基本的にポイント制ルールです。
 ・「必殺技」→テコンドーは、飛び道具がありません。
 ・「グラフィック上のキャラ個性」→テコンドーは、胴着の着用が義務付けられています。


  格闘ゲームの駆け引きのキモともいえる
 「しゃがみ」や「投げ」がないうえに
 派手な必殺技もなけりゃ体力ゲージもないので、技の威力もわからない。
 キャラクターも、頭・肌の色・胴着の色以外は 
 グラフィックがすべて同じなのでどいつもこいつも同じに見える
 (もちろん女性キャラなんて登場しません)。
 ・・・
ク○ゲーですか?

  否ッ!!
 このゲームは
格闘技としてのスポーツゲームである。
 競技ルールを理解して、はじめてゲームとして成り立つのである。


  このゲームの最大の特徴は、
 
技を出すと体力が減ることである(体力ゲージはないが、体力の概念はある)。
 だからガチャガチャプレーなんかでは
 無駄に体力を消耗するだけで、あっさりKO負けしてしまう。
 そこで、
技を一発一発確実にキメていくことが求められるのだ。

  攻撃は主に2種類に分類され、
 頭部攻撃(いわゆる
上段)と上半身攻撃(いわゆる下段)とあって、
 頭部攻撃は、すばやく出せるがリーチが短い、
 上半身攻撃は、技が出るのが若干遅いがリーチが長いという特徴がある。
 頭部攻撃には、通常ガード入力で、
 上半身攻撃には、いわゆるしゃがみガード入力(ナナメ下)で防ぐことができるが、
 瞬時にそれを判断して
、ガードするなんてことは至難の技
 (
技のほとんどがキックだから)。

  したがって、このゲームにおいて攻撃をやり過ごす方法としては、
 ガードよりも
ジャンプやバックダッシュで攻撃回避するのが無難である。
 が、ジャンプ・バックダッシュには
よろめいてしまうという欠点がある
 (選手のボディバランス性能が良ければよろめく確率は減る)。
 よろめき状態のときにウッカリ攻撃を喰らってしまうと
 
ほぼ確実にダウンするハメになるのだ。
 テコンドーのルールでは
5回ダウンすると負けであり、
 また、バックダッシュを連発することは「消極的行為」とみなされ
 
反則ペナルティが課せられてしまう
 いくらジャンプやバックダッシュが有効だと言っても、
 それらは
とてつもない危険をはらんでいるのだ。

  作戦としていちばん有利と思われるのは「
待ち」に徹することである。
 頭部攻撃と上半身攻撃を見切るには熟練を必要とするが、
 上半身攻撃の発生は遅いため、基本的にはひたすら頭部ガードが主な防御手段となる。
 それでも、「待ち」にも弱点がある。
 ガードをはじいてよろめかせる「足がけ蹴り(
ガード崩し)」の格好の餌食なのだ。
 ガードを崩されてしまった場合、一定時間
操作不能に陥り、
 その間に攻撃を受けると
ノックダウンさせられるのだ。

  ・
攻撃すると体力が減る
  ・
回避行動はスキが発生するし、ペナルティ対象
  ・
防御は、ガードクラッシュの餌食

  むやみに
攻撃する奴には、回避行動に出れば体力を削ることができる。
 しかし、
回避行動にはよろめくリスクがあり、おまけにペナルティも課せられる。
 で、防御に徹した「
待ち」はガード崩しの格好の的。
 すなはち、
 
「攻撃」には「回避」が有効で、
 
「回避」に対しては「待ち」が効果的
 でも
「待ち」「攻撃」に対して弱いという、
 「攻撃」←「回避」←「待ち」←「攻撃」←「回避」という
3すくみの関係があると言えよう。

  ・・・これって、格闘ゲームの
「打・防・投」の図式にソックリじゃないか?
 そう。
 「テコンドー」は通常の格闘ゲームとは異なるが、
 
格闘ゲームのような駆け引きは
 少々形が違えど
しっかりと凝縮されているのである。

  さらに驚愕すべきことは、
 このゲームが94年という格ゲー乱発期にも関わらず、
 さまざまなシステムが織り込まれ、かつ高い完成度を誇っていることである。

  ・バックダッシュするとランダムでよろける。
  ・技発生まで時間のかかるガードクラッシュ。
  ・ガード直後に反撃できるカウンター=ガードキャンセル。
  ・別ラインに攻撃判定のある回転技。
  ・必殺技を撤廃したガチンコ勝負。
  ・空中ガードおよび、地上からの攻撃をはじいてスキをつくる「やりすごし」。
  ・敵の攻撃を誘う「フェイント」。
  ・上下ガードを揺さぶる「連続コンボ」。

  どれもこれも、後にどこかの格闘ゲームが採用したシステムである
 (もっともコントローラーのボタンをすべて駆使するうえに
 キー入力のタイミングがシビアなので、使いこなすには鍛錬を必要とするが)。


  本作は限りなく見た目が
地味である。
 が、ひとつひとつの技にも少しずつ性能が異なり、
 キャラ個性もしっかりと差別化されている

 パッと見は同じにしか思えないキャラや技も、
 ひたすらやり込むうちに
「感じる」ことで理解できていくのだ。

  格闘ゲームのバブル期に生まれたにも関わらず、
 独自のシステムを意欲的に取り入れ、
 かつそれを「スポーツ格闘ゲーム」として奇跡のようなゲームバランスをもって生まれた作品、
 それが「テコンドー」なのである。









  ・・・と、誉め倒しまくりましたが、
 ゲームとしての完成度とかどうとかいうのは、
 じつは「テコンドー」というゲームの
茶番でしかありません。
 本作は、格闘ゲーム、スポーツゲームというのはあくまで
仮の姿
 「テコンドー」は、スーファミでも
トップクラスのバカゲーなのです。

  テコンドーのルール上、審判の掛け声がすべて韓国語で、
 それを完全にサンプリングしているのはオッケーとしましょう
 (「テコンドー協会」のホームページに行って調べました)。
 でもね、ゲーム中の文字表記が
 
すべてハングル文字になる韓国語モードがあるのは
 
さすがに気合が入りすぎだと思いませんか?
 しかもこの言語設定が、タイトル画面でイキナリ
  
IN JAPANISE?
  
IN KOREA?
 と出てくるンですよ。
 「ウィザードリィ」などの文字表示が英語になるゲームで
 敢えて英語プレーなんかしてみて、ミョーなクール感に浸った経験はありますが、
 ハングル文字でのプレーは、
流石に初体験です
 つーか、
まったく理解不能
 しかも、通常プレーなら日本人が主人公なんですけど、
 韓国語モードなら、
韓国人が主人公になるという徹底ぶり。
 徹底しすぎです。

  そして、プレーヤーのアゴの関節を外してくれるのが、
 本作のメインとなるトーナメントモード。
 なにせ世界大会の舞台が
北朝鮮の首都はピョンヤン
 そこに世界中のテコンドー使いが集結し、
 主人公は代表選手として北朝鮮に単身乗り込んでいく。
 にしても、北朝鮮代表は
3人もいるのはどうしてなんでしょうか?
 自国開催だからでしょうか?

  北朝鮮代表選手が3人もいる時点で凄いのに、
 よりによって彼らは
兄弟
  ・長男:
悪人系(ツンツン頭)
  ・次男:
冷酷系(ロン毛)
  ・三男:
暴力系(ハゲ)    
 ・・・という役割分担までできております。
 困ったことに、彼ら兄弟は
まったく似ていないというオマケつき。
 
権力にモノをいわせた一夫多妻制の結晶なのか?と
 
嫌な想像がマッハで脳内を駆け抜けていきます。
 ちなみに、彼らの名前は
「邪」三兄弟
 あまりにもストレートな名前に、喜び組もオッパイ揺らしますが、
 朝鮮民族にそんな姓は
存在しません。

  で、このゲームを根底からブチ壊し、バカゲー化させている張本人が、
 
北朝鮮の首都はピョンヤンで行われる世界大会決勝戦で戦う相手、
 すなはちラスボスこと「
邪・長男」。
 試合開始直前、邪・長男は
審判にキックをお見舞いして吹っ飛ばす
 吹っ飛ばされた審判は、
電光掲示板に叩きつけられ失神(死亡か?)
 試合の残り時間や打撃ポイント、ダウン回数などを示す
電光掲示板は破壊され
 
その機能を失ってしまう
 そしてゲーム画面上には、イキナリ
体力ゲージが出現
 直後、
ルール無用の無制限デスマッチバトルが、
 
北朝鮮の首都はピョンヤンを舞台に始まるのだッ!!
 (経済的に貧困なあの国で、
 
外貨獲得のためのイベントをブチ壊す長男は反抗期なのでしょう)


  邪・長男はシャレにならんくらい強い!
 邪・長男の技は強力!スピードも速い!
 キャラ性能で言えば、トップクラス!
 おまけにアルゴリズムも凶悪で、こっちの出す技をことごとくかわしていく!

  そんな邪・長男の攻略法は
ひたすら逃げまくること
 今までは、逃げまくってるとペナルティが与えられてましたけども、
 ラスボス戦では
審判がいないのでそんなもの関係ありません。
 ひたすら距離をおいて逃げまくっているうちに
 「邪」長男は無節操に技を繰り出して
勝手に体力を消耗していくのです
 (体力ゲージが表示されるので、邪・長男がヘロヘロになっていく様子がわかります)。


  ところがどっこい、
邪・長男が真の姿を表すのは、
 彼の残り体力がギリギリになったときでございます。
 追い込まれた邪・長男は最後の力を振り絞り、
 
テコンドーの究極奥義をもって牙を剥いてくるのであります。

  この技、どこかで見たことがあるッ!!
 超高速で技を繰り出しまくり大ダメージを与える、
 そう、この技はまさしく、
あのテコンドー使いの超必殺技ッ・・・!!






  鳳○脚?






  この脅威の技に耐えきり1発でも攻撃が当たれば
 悪の脅威(?)である邪・長男を倒すことができるのだッ!!
 かくして、
北朝鮮の首都はピョンヤンで繰り広げられた死闘は幕を閉じる。
 その直後、淡々と流れ始めるスタッフロール。
 全然感動しないエンディングを見て、
 我々は思わず呟いてしまうことだろう。



 「そういえば、『コナミックスポーツ イン・ソウル』
にもテコンドーってあったよなぁ・・・。」





 余談その1:このゲーム、そのゲームシステムの独特さもあり、
   北朝鮮はピョンヤンで待ち構えるラスボスのところまで行くのは大変です。
   そこでアドバイス。
   キャラを育成するエディットモードで、技の出が早いもの(直線系の技)をメインに習得させ、
   ディフェンスとスピードを強化しまくってポイント勝ちを狙っていきましょう。
   後半は、ラスボス戦が持久戦になることを考慮してスタミナを強化。
   あとは気合と根性で頑張って下さい。

 余談その2:ハングルモードでプレーした場合、
   ラスボスは日本人です。
   
半日感情をストレートに表現しているというのは考えすぎでしょうか。

 余談その3:だーいぶ後で知ったことですが、
   テコンドーのルール(と派閥)には、主に2種類あるようです。
   本作は、その2種類をゲームらしくミックスさせたものであり、実在のルールとは異なる部分があります。
   そのへんを調べてみるのも一興です。