バウンティ・ソード
S・RPG  95.9.8発売  パイオニアLDC


  じつは「ドラクエ6」って、終盤で仲間になる剣士テリーさんが
 主人公の予定だったってハナシをご存知でしょうか?
 が、このテリーさんは困ったことにニヒルな性格という設定であり、
 主人公=プレーヤーという図式の成り立つ「ドラクエ」シリーズでは、
 プレーヤーとの一体感を阻害するという理由で、脇役に降板してしまったのだそうです。

  映画などの受動的メディアの場合なら、我々は主人公の行動を眺めていればいいのですけども、 
 ゲームの場合は、プレーヤー自身が主人公を操作しなければならないので、
 ネガティブな性格の主人公というのは敬遠されがちなのです。

  が、しかし。
 
すげぇネガティブなキャラが主人公のゲームが存在しました。
 こんなにやる気のない主人公は、いまだかつてないと断言いたします。
 超マイナーなシミュレーションRPG「
バウンティ・ソード」の主人公であるソードさんです。 
 ソードさんは、独身、酒好き、無精ひげがボーボーの
31歳のオヤジです
 (今回は敬意を込めて、彼にちゃんと「
さん」づけで呼ぶことにしています)。
 はい、おさらい。
 「バウンティ・ソード」の主人公の名前は
ソードさんです。
 ちなみに31歳の魚座のO型だそうです。

  普通のゲームなら、主人公ってのはたいてい10代後半から20代という
 とってもエネルギッシュなお年頃ですけども、
 ソードさんは
三十路も過ぎてるワケでして、
 
人生にかなりヤル気がありません
 ソードさんは、かつて大戦で勝利を治めた王国の住人です。
 職業は賞金稼ぎ。
 そのへんのゴロツキや泥棒をテキトーに退治して、それで賞金を貰って生活しているのです。
 「オレはその日暮らしの賞金稼ぎ」と自分で言うソードさん。

  そんなソードさんは、世間からの風当たりも強いです。
 なにせその日暮らしのソードさんは「
裏切り者のソード」と呼ばれていますから。
 世間の冷たい風を浴びつつ、その日暮らしで単に生きているというだけオヤジ。
 嗚呼、なんとまぁどうしようもない主人公なことか。
 どうしてソードさんはこんなに
情けないのでしょうか?

  実はソードさんにも、輝かしい過去がありました。
 じつは若かりし日のソードさんは、王国一の剣士だったのです。
 10年前、ソードさんの国は戦争をしていて、王国近衛騎士団でバリバリに活躍していたのでした。
 しかし、戦争の最終局面にて、国は近衛騎士団を囮にするという作戦を取り、
 ソードさんはその作戦に腹を立てて
前線から脱走したのです。
 「裏切り者のソード」と呼ばれる所以はここにあるのです。

  で、ソードさんのいなくなった近衛騎士団は大打撃を受けてしまい、
 その結果、仲間を見殺しにしてしまったのですね。
 そしてソードさんは除隊勧告を受けるハメになったのです。
 ちなみの近衛騎士団の中には、自分の恋人がいたんですけども、
 
自分の裏切りによって戦死してしまったというどうしようもなさ。
 そりゃあもう愛する者は死んでしまうわ、名声も失ってしまうわ、
 さらにプータローになるわで、いっきに人生のドン底に突入です。

  毎日をダラダラと生きるソードさんの理解者は、当然
少ないです。
 60歳を過ぎたジジイ賞金稼ぎをはじめとするごく数人の同業者。
 そして、戦争をきっかけに軍事大臣に成りあがった、元所属部隊の仲間さんの1人。
 ・・・・・・このくらいです。
 どうですか!このどうしようもない設定の主人公!!
 
完全に、人生そのものに疲れきっています

  そんな人生に、さらに疲れる出来事が降りかかります。
 それは、ソードさんがある少女と知り合ってしまうこと。
 「金さえ貰えばなんでもする。それが賞金稼ぎだ。」と言い放つソードさんは、
 偶然知り合ってしまった少女に雇われてしまいます。
 じつはこの少女、敵国の王女様でして
 その依頼内容が「父を殺して欲しい」というものだったのです。
 とんでもない依頼を引き受けてしまったソードさん。
 しかし、こんなやれやれな依頼をきっかけに
 ソードさんの人生の歯車は、10年前に向けて動き始めるのです。

  それでもソードさんはあんまり
ヤル気がありません
 自分たちに協力してくれる仲間たちは、ほとんどの場合が「敵国と倒す」という理由で戦ってるのに対して、 
 ソードさんはあくまで
雇われたから戦っているのです。
 要するにソードさんは、戦いに巻き込まれてるだけなんですね。
 「この報酬は高くつくぞ。」とか金のことをブツブツ言ったりします。
 なんだか
こっちも嫌な気分になりそうですが、
 困ったことにソードさんのセリフってのが、いちいち
カッコよくって許せちゃうのです。
 イヤン。

  物語の章のはじめと終わりに、ソードさんのつぶやくモノローグが挿入されるのですけども、
 それ見たさについついと先へプレーしてしまうのです。
 実はワタシの手元にはソードさんの名言をメモした「ソードさん語録」が残されてるのですけども
 (でも、走り書きなので
解読するのが自分でも大変)、その一部を紹介しましょう。

 ・まったくケチな盗賊だ。今のオレには似合いの相手かもしれない。
 ・オレが求めるのは、ただ日々を生きることだ。
 ・いいじゃないか。オレは闇が好きだ。
  闇はわけへだてなく、あらゆるものを優しく包み隠してくれるからだ。
 ・狙う者、狙われる者。それはいつ何時変わるかわからない。
  オレが踏み倒してきた多くの屍は、オレの明日の姿なのか。
 ・果たして運命の歯車はどこから狂いだしたのか?今はまだ、見つかりそうもない。
 ・そこらで多くの者の運命の歯車が軋みながら狂っていく。
  それともこれが定められた運命なのか。
 ・運命は、野ウサギに狼として生きろと強いている。
 ・気まぐれもまた運命ならそれもいいかもしれん。オレはそう思った。
 ・死ぬ者もいれば、それを食い物にしてのし上がっていく奴もいる。だから戦争はなくならないのか。
  では、今のオレたちは何のために戦っているのだろうか?
 ・どんな戦争にも理由がある。ほんの小さなことかもしれない。だが、それが彼らを戦わせるのだ。
 ・やり残したことは多い。10年後に悔やまないためにも、今できることはやりとげよう。


 
どうですか奥さん!!
 シビレるでしょう、
三十路過ぎの独り言はッ!!
 「運命」「運命」としきりに口走ってるあたりが女々しいです。
 しかも「バウンティ・ソード」のカッコよさは、各章のタイトルにも象徴されています。

 ・10年前を思い出す「終わりなき夢 〜Memories〜」
 ・昔の友人と一騎打ちする「追憶の戦場 〜Friend Ship〜」
 ・仲間のガンマンが復讐を果たす「銃声、鳴りやまず 〜Rapid fire〜」
 ・自分自身と戦う「影との戦い 〜Another One〜」
 ・かつての戦友だったライバルとの決戦「対決 〜True Friend〜」

  とにかくあらゆるものがカッチョイイのです。

  物語終盤、
 過去の戦いによってすべてを失ったはずのソードさんは、
 皮肉なことに戦いによって自分を取り戻していきます。
 その間にあるのは、
過ぎ去りし過去への決別
 そして生きることへの絶望と、
それでも生きる希望
 エェ年こいても悩み続け、苦しみながらも生きていこうとするソードさんは
 プレーする人に「生きる力」を与えてくれるのです。


  ・・・あ、肝心のゲーム内容について書くのを
完全に忘れていました
 えっと、えっと・・・頭の悪いCPUの思考ルーチンが微笑ましい、セミオートのシミュレーションRPGです。
 
それ以上は聞かないでください


  〜余談〜
 「バウンティ・ソード」の物語は全部で3部作だそうで、
 プレステで「1」がリメイクされたあとに、「バウンティ・ソード2〜ダブルエッジ〜」が発売されています。
 主人公は、血気盛んな新米騎士と
 戦争で夫を亡くし、復讐を誓う未亡人の2人。
 まったく立場の異なる2人の登場人物の視点から
 ひとつの戦争を見つめるという物語スタイルだそうです。
 しかし、この「2」の評価はかなり低いらしく、いつまで経っても「3」が発売されていないことがそれを証明しています。